辻・本郷ITコンサルティング——中小企業の事務を、人から仕組みに移せるか
保有中(含み損益 +17.14%/2026年10月29日時点)
火曜のSHIFTは人を増やして伸び、水曜のシステナは人を増やさずに伸びた。どちらも、エンジニアが働いた時間で代金を受け取る会社だった。
今日は、少し違う形の2社を見る。日本からは辻・本郷ITコンサルティング、米国からはペイチェックスだ。どちらも、中小企業の経理や給与計算といった「事務」を請け負う。そしてペイチェックスは、その事務を、人ではなく仕組みで回す形を作り上げた会社だ。
月曜の3つ目の物差し「時間で請求しているか、成果や件数で請求しているか」を、いちばんはっきり見られる組み合わせになる。
2社はどんな会社か
| 辻・本郷ITコンサルティング(保有中) | ペイチェックス | |
|---|---|---|
| 本社 | 東京 | 米ニューヨーク州 |
| 主な事業 | 中小企業の経理・給与などの事務のデジタル化を、コンサル・システム導入・業務代行で支える | 中小企業の給与計算、人事・福利厚生の代行と、そのためのソフトウェア |
| 客 | 中小企業。親会社の辻・本郷グループ(税理士法人で知られる)の顧客基盤とつながる | 約80万社の給与計算の客。人事の代行で約260万人の働き手を支える |
| 社員数 | 公表資料で推移を確認できず | 約17,600人(2026年5月末) |
| 直近の売上 | 21.2億円(2025年9月期) | 65.1億ドル(2026年5月期) |
規模は1,000倍以上違う。ただ、相手にしている客と、引き受けている仕事は近い。
辻・本郷ITコンサルティングは、2025年12月に東証スタンダードに上場したばかりの小さな会社だ。親会社の本郷ホールディングスが約36.5%を持っている。
2社の「式」は違う
月曜の式を、2社に当ててみる。
| 売上の決まり方 | |
|---|---|
| 辻・本郷IT | コンサルやシステム導入は「人数×単価×期間」。業務代行は毎月の継続収入 |
| ペイチェックス | 「客の数×客1社あたりの単価」。客の社員が増えれば、給与計算の量も増える |
辻・本郷ITは、人月と継続収入が混ざった会社だ。コンサルやシステム導入は案件ごとに人をかけて代金を受け取る。業務代行は、一度引き受ければ毎月の売上になる。
ペイチェックスの式には、自社のエンジニアの人数が出てこない。売上を決めるのは、客の数と、客1社から受け取る金額だ。契約には決まった期間がなく、30日前に知らせればどちらからでもやめられる。それでも、給与計算の客の8割以上が毎年残る。給与の計算は、一度任せたら簡単には変えない仕事だからだ。
物差し①:売上は人数に比例しているか
ペイチェックス:1人あたりの売上が、桁違いに大きい
| 会社 | 年間売上 | 社員数 | 1人あたり売上 |
|---|---|---|---|
| ペイチェックス | 65.1億ドル | 約1.8万人 | 約37万ドル |
| EPAM(火曜) | 約57億ドル | 約6.3万人 | 約9万ドル |
| インフォシス(水曜) | 約206億ドル | 約33万人 | 約6万ドル |
※EPAMとインフォシスの年間売上は、直近の四半期の売上を4倍した概算。
ペイチェックスの1人あたり売上は、EPAMの約4倍、インフォシスの約6倍だ。
人が働いた時間を売る会社は、1人あたりの売上に上限がある。1人が1カ月に働ける時間は決まっているからだ。客の数で売る会社は、仕組みが回る限り、同じ人数でより多くの客を受け持てる。
辻・本郷IT:まだ比べられる数字がそろっていない
辻・本郷ITは上場から1年たっておらず、社員数の推移を確かめられる数字がそろっていない。売上は2025年9月期に64.5%増え、今期も37.1%増の29.1億円を見込んでいる。
ただ、今期の利益の進み方は遅い。
| 2026年9月期 | 経常利益 | 通期予想への進み具合 |
|---|---|---|
| 10〜12月期まで | 0.40億円 | 9.3% |
| 1〜3月期まで | 1.18億円 | 27.6% |
| 4〜6月期まで | 1.70億円 | 39.7% |
| 通期予想 | 4.28億円 | ― |
上半期は、売上が14.1%増えた一方で、営業利益は25.5%減った。通期予想を達成するには、7〜9月期の1四半期だけで、それまでの9カ月の1.5倍の利益を出す必要がある。会社は予想を変えていない。
売上は伸びているのに、利益がついてこない。小さな会社が急いで伸びようとするときに起きやすい形で、これが一時的なのかどうかは、まだ数字では分からない。
物差し②:1人あたりの利益は上がっているか
| 項目 | 辻・本郷IT | ペイチェックス |
|---|---|---|
| 営業利益率 | 15.1%(2025年9月期) | 38.0%(2026年6〜8月期。前年35.2%) |
| 今期の見通し | 14.7%(会社予想) | 調整後で40%前後 |
ペイチェックスの営業利益率は38%で、今週ここまで見たITサービスのどの会社よりも高い。2025年4月に買収したペイコアの統合が進み、利益率はさらに上がっている。
辻・本郷ITの営業利益率は15%前後で、システナやSHIFTと近い。人月の会社の水準だ。
物差し③:時間で請求しているか、件数で請求しているか
ここが今日の本題だ。
AIで仕事が速くなると、時間で請求する会社は売上が減り、件数で請求する会社は利益率が上がる。月曜にそう書いた。ペイチェックスは、その後者の形をしている。
| ペイチェックスのAI | 内容 |
|---|---|
| 給与計算の自動化 | 1〜8月に、自動で処理した給与計算が約20%増えた |
| ミスの防止 | 5万社以上で試した結果、狙った給与計算のミスの約9割を防いだ |
| 社内での活用 | 1万人以上の社員がAIを使っている。今期のAIへの投資は前期の5倍 |
給与計算が自動で回るほど、ペイチェックスの費用は下がる。客から受け取る代金は変わらない。AIの効果が、そのまま利益率に乗る。
ただし、ペイチェックスにも弱点はある。売上の式に「客の社員数」が入っていることだ。中小企業が人を減らせば、給与計算の量も減る。9月の決算では、中心の給与計算の部門の売上が4%増にとどまり、会社自身が「期待をやや下回った」と認めた。株価はその日に7%下げた。
AIで中小企業の採用が鈍れば、ペイチェックスの式の「客の社員数」が細る。AIで自社の費用は下がるが、客の側の人数が減るリスクを抱えている。人月とは違う場所で、同じ問いにぶつかっている。
辻・本郷ITは、その手前にいる。コンサルやシステム導入は時間で請求し、業務代行は毎月の継続収入になる。業務代行の部分をAIで回せるようになれば、ペイチェックスと同じように、AIの効果が利益率に乗る。コンサルとシステム導入の部分は、人月の会社と同じ逆風を受ける。
評価を並べる
| 指標 | 辻・本郷IT | ペイチェックス |
|---|---|---|
| 株価 | 2,167円 | 約109ドル |
| 時価総額 | 44.2億円 | 約392億ドル(約6.2兆円) |
| PER | 13.6倍(予想) | 21.8倍(実績)、約18倍(会社見通しから概算) |
| PBR | 3.63倍 | 約10.5倍(計算値) |
| ROE | 18.3% | 約47%(計算値) |
| 理論PBR(ROE÷8%) | 2.29倍 | 約5.9倍 |
| 実際÷理論 | 1.59 | 約1.78 |
| 成長倍率(PER÷12.5) | 1.09 | 1.75(会社見通しから概算で約1.5) |
| 配当利回り | なし | 4.33% |
※辻・本郷ITは2026年10月29日時点。ペイチェックスは直近の米国市場の値。円換算は1ドル=158円で概算。 ※ペイチェックスのPBRは、時価総額を2026年5月末の株主資本37.4億ドルで割った計算値。ROEは2026年5月期の純利益17.6億ドルを同じ株主資本で割った値。会社見通しからのPERは、今期の調整後1株利益の見通し(前期比7〜9%増、約5.90〜6.01ドル)の中央値を使った概算。
ペイチェックス:ROEの高さは、株主資本の小ささでもある
ペイチェックスのROE47%は、稼ぐ力の高さと同時に、株主資本が小さいことの表れでもある。利益の大半を配当と自社株買いで株主に返しているので、株主資本が積み上がらない。PBR10倍という数字は、そのせいで大きく見えている面がある。
それでも実際÷理論は約1.78で、上乗せはある。株価は1年の高値128ドルから15%ほど下げているが、市場は今も、件数で稼ぐ仕組みに値段をつけている。
辻・本郷IT:予想どおりなら安い。ただし予想が前提
辻・本郷ITの予想PERは13.6倍で、成長倍率は1.09だ。今期の売上が37%伸びる見通しの会社としては、高い値段ではない。
ただし、この数字は通期予想の純利益3.02億円が達成される前提だ。前期の純利益1.69億円で計算すると、PERは約26倍になる。前に書いたとおり、4〜6月期までの進み具合は4割に届いていない。予想に届かなければ、この「安さ」は消える。
保有している立場から見て
辻・本郷ITコンサルティングは保有している。含み損益は+17.14%だ。
今週の3社の中で、辻・本郷ITは人月の会社からいちばん離れられる可能性を持っている。業務代行という継続収入の柱があり、親会社の税理士法人を通じて中小企業の客とつながっている。この事務をAIで回せるようになれば、ペイチェックスに近い形に移っていける。
持ち続ける。
ただし、その前に確かめることがある。11月に発表される2026年9月期の決算だ。通期予想を達成できたか、そして来期の見通しが、人を増やして売上を伸ばす人月の計画なのか、業務代行の継続収入を伸ばす計画なのか。前者なら、ただの小さな人月の会社として見直す。後者なら、今週のテーマに対する答えを、この会社が持っていることになる。
ペイチェックスは保有していない。配当利回り4%台は自分の買い方に合うが、売上の式に入っている「中小企業の社員数」が、AIでどう動くかがまだ読めない。件数で稼ぐ仕組みは強いが、その件数の土台が揺らぐ可能性がある間は、外から見ておく。
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