人月ビジネス——AIは「人数×単価」の式を壊すのか
この2週間、自分の持ち株では、AIに近い銘柄から順に下げた。日本電子材料とフォームファクターは2週間で3割を超えて下げ、データセンター向けで業績を引き上げたサンコールも続いた。
その中で、2週続けて上昇TOP3に入ったのがSHIFTだった。
SHIFTは、ソフトウェアのテストを請け負うITサービスの会社だ。AIの恩恵を受ける側の半導体株が売られた週に、上がった。ところが、少し前までの米国では逆のことが起きていた。2026年の米国とインドでは、ITサービスの株こそが「AIに仕事を奪われる側」として売られていた。
同じAIが、ある時は半導体を押し上げてITサービスを押し下げ、ある時はその逆になる。今週は、ITサービスの会社がAIに対してどちら側にいるのかを確かめる。
人月ビジネスとは
ITサービスの会社の多くは、売上がこう決まる。
売上 = エンジニアの人数 × 単価 × 稼働率
「人月」は、1人のエンジニアが1カ月働く量のことだ。システム開発やテストの仕事を「何人で何カ月かかるか」で見積もり、その人数と期間に単価をかけて代金を受け取る。稼働率は、抱えているエンジニアのうち、実際に客先の仕事に就いている割合だ。
この形の良いところは、分かりやすいことだ。人を増やせば売上が増える。悪いところも同じで、人を増やさないと売上が増えない。
AIは、式のどこを壊すのか
AIでコードを書いたりテストを作ったりできるようになると、同じ仕事に必要な人数や時間が減る。それが式の3つの項にどう効くかを並べるとこうなる。
| 項 | AIの影響 | 会社にとって |
|---|---|---|
| 人数 | 同じ仕事を少ない人数でこなせる | 時間で請求していれば、売上が減る |
| 単価 | 客が「AIで安くなった分を値下げしてほしい」と求める | 単価が下がる |
| 稼働率 | 空いたエンジニアに次の仕事を回せるかどうか | 回せなければ下がる |
ここで分かれ目になるのが、どうやって代金を受け取っているかだ。
| 請求の仕方 | AIで仕事が速くなると |
|---|---|
| 時間で請求する(人月) | かかる時間が減った分、売上が減る |
| 成果や件数で請求する | 同じ代金のまま費用が減り、利益率が上がる |
同じAIでも、時間で売っている会社には逆風になり、成果で売っている会社には追い風になる。
2026年に、米国とインドで起きたこと
この心配は、2026年に米国とインドのITサービス株で、実際の株価として現れた。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2026年初め | AIの新しいツールが相次いで出たことをきっかけに、ソフトウェア株が売られ、ITサービス株も出遅れた |
| 6月18日 | アクセンチュアが通期の売上成長の見通しを3〜4%に引き下げ、株価は1日で18%下落。過去最大の下げ幅。EPAMシステムズは1月の高値から67%下げた水準にあった |
| 10月1日 | アクセンチュアが今期の売上成長を3〜6%と見込み、株価は1日で約22%上昇。過去最大の上げ幅。それでも年初からは約3分の1下げていた |
10月の上昇で不安がいったん和らいだように見えるが、ロイター通信は同じ日に、アクセンチュアの価格が多くの分野で下がっていると伝えている。客が、AIで生まれた効率化の分け前を求めているからだ。式の「単価」が、すでに下がり始めている。
インドのITサービス大手も同じだ。インフォシスは2027年3月期の売上成長の見通しを、7月に1.5〜3%と低く示し、その理由の一つに、客がAIによる生産性の向上を期待していることを挙げた。10月にはこれをさらに1〜2%に下げている。
物差しを当ててみる:アクセンチュア
アクセンチュアの数字で、式がどうなっているかを確かめる。
| 項目 | 2025年8月期末 | 2026年8月期末 |
|---|---|---|
| 社員数 | 約77.9万人 | 約81.4万人(+4.5%) |
| 売上の伸び(現地通貨ベース) | ― | +5% |
| 営業利益率 | ― | 15.4% |
社員数が4.5%増えて、売上が5%増えた。売上は、まだほぼ人数に比例している。1人あたりの売上は、ほとんど変わっていない。
アクセンチュアは2025年に、AIへの対応で学び直しが難しい社員を中心に1万人以上を削減した。それでも1年で見れば社員数は増え、売上もそれに合わせて伸びた。AIで式が壊れた、とはまだ言えない。ただ単価が下がり始めているなら、同じ人数で同じ売上を保つのが、これから難しくなる。
日本は事情が違う
日本のITサービス業界には、米国やインドとは逆の事情がある。エンジニアが足りない。
経済産業省は2019年の試算で、2030年にIT人材が最大で約79万人不足するとしていた。仕事はあるのに、人がいない。式で言えば、「人数」の項が増やせないことが、成長の天井になっている。
この状況では、AIは「仕事を奪うもの」ではなく、足りない人手を埋めるものとして働く余地がある。人を増やせなくても、AIで1人がこなせる仕事が増えれば、売上は伸びる。
SHIFTの決算には、その兆しが出ている。2026年8月期の調整後営業利益は203億円で、前期比14.8%増えた。第3四半期までは採用費の増加などで減益だったが、稼働率の改善とAIの活用で利益率が上がり、通期では増益に転じた。今期は250億円(23.4%増)を見込んでいる。
ただし、日本でもいずれ客は「AIで安くなった分を値下げしてほしい」と言い出す。人手不足が続くうちは単価を守れても、それがいつまで続くかは分からない。
今週の物差し
核融合の週と同じように、今週も3つの物差しで各社を見る。
- 売上は人数に比例しているか:社員数の伸びと売上の伸びを比べる。人数より売上が速く伸びていれば、AIなどで1人あたりの生産性が上がっている
- 1人あたりの利益は上がっているか:単価と稼働率、営業利益率の推移を見る
- 時間で請求しているか、成果で請求しているか:AIが速くした分が、売上の減少になるのか、利益率の上昇になるのか
今週の予定
| 曜日 | 日本 | 対になる米国・インド | 見る点 |
|---|---|---|---|
| 火 | SHIFT | EPAMシステムズ | テストと開発。AIで最も直接に仕事が変わる分野 |
| 水 | システナ | インフォシス | エンジニアを抱えて客先の仕事を請け負う、典型的な人月型 |
| 木 | 辻・本郷ITコンサルティング | ペイチェックス | 中小企業の経理・給与などのバックオフィスを、コンサル・システム・業務代行で支える |
各銘柄の指標は、それぞれの個別記事で最新の数字を確認する。
金曜は、ここにアクセンチュア、野村総合研究所、富士通なども加えて、日米印のITサービス株を横並びにする予定だ。
今週の日本の3社は、すべて保有している。核融合の週は、すべて保有していない立場から見た。今週は逆に、自分の持ち株がAIに対してどちら側にいるのかを、当事者として確かめる週になる。
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