ITサービス9社比較——海外は「人月」に値段をつけず、日本はまだつけている
今週は、ITサービスの会社を6社見てきた。月曜に立てた問いは、「AIは『人数×単価』の式を壊すのか」だった。物差しは3つだ。
- 売上は人数に比例しているか
- 1人あたりの利益は上がっているか
- 時間で請求しているか、成果や件数で請求しているか
今日はここに、月曜に見たアクセンチュアと、日本の大手2社、野村総合研究所と富士通を加えて、9社を並べる。
新しく加える3社
| 会社 | どんな会社か |
|---|---|
| アクセンチュア | 世界最大のITサービス・コンサル会社。社員約81万人。2026年8月期の売上は741.8億ドル |
| 野村総合研究所 | 証券会社などが共同で使うシステムを提供する「共同利用型サービス」が強み。2026年3月期は海外子会社の減損で純利益が大きく減ったが、今期は回復を見込む |
| 富士通 | 日本最大級のITサービス会社。サーバーやパソコンなどの機器も持つが、利益の中心はシステムの開発・運用のサービス部門。10月29日の決算の後、30日に株価はストップ安になった |
野村総合研究所の「共同利用型サービス」は、1つのシステムを多くの客に使ってもらい、利用に応じて代金を受け取る形だ。木曜のペイチェックスに近く、人月とは違う稼ぎ方をしている。
富士通:人月の部分は好調、崩れたのは機械の部分
富士通の4〜9月期の調整後営業利益は1,139億円で、前年から6.1%減った。市場の予想を下回り、30日の株価は1日で16%下げてストップ安になった。
ただ、中身を分けると、崩れた場所ははっきりしている。
| 部門 | 4〜9月期の調整後営業利益 | 前年比 |
|---|---|---|
| サービス(システムの開発・運用) | 1,337億円 | +11.8% |
| ハードウェア(サーバーなど) | 45億円 | -64% |
システムの開発・運用を請け負うサービス部門、つまり人月に近い部分は、売上が5.9%、利益が11.8%伸びた。日本企業のシステムの作り直しやDXの需要が続いている。
利益を押し下げたのは、サーバーなどの機器の部門だ。AI向けの需要でメモリー半導体の値段が上がり、それを部品として買う側の利益が削られた。パソコンも、Windows 10のサポート終了に伴う買い替えが一巡して利益が減った。
富士通は、人月の仕事ではなく、AIで値上がりした部品の買い手として売られた。今週のテーマから見れば、日本の人月の需要はまだ強いことを示す決算だった。
表1:売上は人数に比例しているか
| 会社 | 社員数の伸び | 売上の伸び | 読み方 |
|---|---|---|---|
| システナ | -4.6%(単体、2年) | +23%(2年) | 人を減らして売上を伸ばした |
| SHIFT | +13.9%(2025年8月期) | +17.4%(同) | 人を増やし、それ以上に売上を伸ばした |
| アクセンチュア | +4.5%(2026年8月期末) | +5%(同、現地通貨ベース) | 人数にほぼ比例 |
| EPAM | +1.5%(2026年6月末) | +4.5%(4〜6月期) | 人数も売上も伸びが小さい |
| インフォシス | +0.2%(2026年9月末) | +1.3%(7〜9月期) | 人数も売上も止まっている |
※ペイチェックスは客の数で売上が決まるため、この表には入れない。辻・本郷ITは社員数の推移を確かめられる数字がそろっていない。野村総合研究所と富士通は今回は確かめていない。
米国とインドの3社は、人数と売上がほぼ同じ速さで動いている。人を増やさなければ売上が伸びない、という式の形がそのまま残っている。
日本の2社は違った。SHIFTは人を増やしてそれ以上に伸ばし、システナは人を減らして伸ばした。日本の人手不足が、単価を上げられる状況を作っている。
表2:1人あたりの利益は上がっているか(営業利益率)
| 会社 | 営業利益率 | 方向 |
|---|---|---|
| ペイチェックス | 38.0% | 上昇(前年35.2%) |
| インフォシス | 21.0% | 横ばい |
| EPAM | 16.4%(調整後) | 上昇(前年15.0%) |
| システナ | 16.3% | 上昇(2年前12.6%) |
| アクセンチュア | 15.4% | 横ばい |
| 辻・本郷IT | 15.1% | 今期は14.7%の見通し |
| SHIFT | 12.5%(調整後) | 今期は13.2%の見通し |
※富士通と野村総合研究所は事業の構成が違うため、この表には入れない。
利益率が上がっている会社は、2つに分かれる。
1つは、売上が伸びない中でコストを削っている会社だ。EPAMがこれに当たる。もう1つは、単価や件数で、売上と一緒に利益率を上げている会社だ。システナとペイチェックスがこれに当たる。同じ「利益率の上昇」でも、意味はまったく違う。
表3:時間で請求しているか、件数で請求しているか
| 請求の形 | 当てはまる会社 | AIで仕事が速くなると |
|---|---|---|
| 時間・人月が中心 | インフォシス、EPAM、アクセンチュア、システナ、SHIFT | 単価を守れなければ売上が減る |
| 人月と継続収入の混合 | 辻・本郷IT、富士通 | 継続収入の部分は利益率が上がる |
| 件数・利用量が中心 | ペイチェックス、野村総合研究所(共同利用型) | 費用が下がり、利益率が上がる |
時間・人月が中心の5社のうち、海外の3社は単価が下がり始めている。日本の2社は、今のところ単価を上げている。SHIFTの月額のプロジェクト単価は、1年で440万円から452万円に上がった。
表4:評価を並べる
| 会社 | 保有 | PER | PBR | ROE | 理論PBR | 実際÷理論 | 配当利回り |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| SHIFT | 保有 | 21.6倍 | 6.94倍 | 18.1% | 2.26倍 | 3.07 | 0.46% |
| 野村総合研究所 | 27.4倍 | 7.93倍 | 約28%(予想) | 約3.5倍 | 約2.3 | 1.47% | |
| ペイチェックス | 21.8倍 | 約10.5倍 | 約47% | 約5.9倍 | 約1.8 | 4.33% | |
| 富士通 | 約19.9倍 | 約3.10倍 | 約15%(予想) | 約1.9倍 | 約1.6 | 約1.52% | |
| 辻・本郷IT | 保有 | 13.6倍 | 3.63倍 | 18.3% | 2.29倍 | 1.59 | なし |
| アクセンチュア | 18.2倍 | 約4.6倍 | 約27% | 約3.3倍 | 約1.4 | 2.77% | |
| EPAM | 18.6倍 | 約2.0倍 | 約12% | 約1.5倍 | 1.32 | なし | |
| インフォシス | 14.9倍 | 約5.1倍 | 約32% | 約4.0倍 | 約1.3 | 4.5%前後 | |
| システナ | 保有 | 15.0倍 | 4.05倍 | 31.4% | 3.93倍 | 1.03 | 4.03% |
※株価指標は2026年10月27日〜30日の各社の個別記事時点の値(米国・インド株は直近の市場の値)。富士通のみ10月30日の値に換算。実際÷理論の大きい順に並べた。 ※理論PBRはROE÷資本コスト8%。 ※PERは日本株が予想、米国・インド株は実績。 ※野村総合研究所は前期の純利益が海外子会社の減損975億円で152億円まで減り、実績のROEは3.5%しかない。表のROEは、今期の会社予想の純利益1,190億円を自己資本(時価総額÷PBRで約4,300億円)で割った概算。 ※富士通は30日のストップ安の値(3,622円)で計算し直した。PER・PBR・配当利回りは、29日時点の値(4,322円、PER23.7倍、PBR3.70倍、配当利回り1.27%)を株価の比率で換算した概算。 ※富士通は前期の純利益に事業再編による一時的な利益が含まれ、実績のROEは23.9%と高く出ている。表のROEは、今期の会社予想の純利益3,100億円を自己資本(約2.0兆円)で割った概算。実績のROEで計算すると、実際÷理論は約1.04。 ※アクセンチュアのPBRは時価総額1,460億ドルを8月末の株主資本315.7億ドルで割った計算値。ROEは2026年8月期の純利益83.7億ドルを同じ株主資本で割った値。 ※システナは今期の会社予想の純利益で計算すると、ROEは約23%、実際÷理論は約1.4になる。 ※EPAM、インフォシス、ペイチェックスの計算方法は、それぞれの個別記事を参照。
海外の人月の会社は、そろって1.3〜1.4に並んだ
表4のいちばん分かりやすい点は、ここだ。
| 会社 | 請求の形 | 実際÷理論 |
|---|---|---|
| アクセンチュア | 時間・人月が中心 | 約1.4 |
| EPAM | 時間・人月が中心 | 1.32 |
| インフォシス | 時間・人月が中心 | 約1.3 |
米国とインドで時間を売っている3社は、規模も国も違うのに、上乗せがほぼ同じ水準に並んでいる。アクセンチュアのROEは約27%、インフォシスは約32%ある。稼ぐ力は高いのに、上乗せは小さい。
市場は、人月の会社の「これからの成長」に、ほとんど値段をつけていない。AIが式を壊すかどうかの答えを待たずに、壊れる側に賭けた値段になっている。
日本の会社には、まだ上乗せが残っている
日本の会社は、海外の3社より上に並ぶ。SHIFTは3.07、野村総合研究所は約2.3、ストップ安の後の富士通でも約1.6だ。
理由は2つある。1つは、表1で見たとおり、日本の会社はまだ売上や単価を伸ばしていることだ。人手不足の日本では、AIはまず足りない人手を埋める側に回る。もう1つは、野村総合研究所の共同利用型サービスのように、人月ではない稼ぎ方を持つ会社が混ざっていることだ。
ただ、これは「日本ではAIが式を壊さない」という意味ではない。日本の客が値下げを求め始めるのが、海外より遅いだけかもしれない。そのとき、日本の会社の上乗せは、海外の1.3〜1.4に向かって縮む可能性がある。
システナだけが、海外と同じ値段にいる
表4でいちばん下にいるのは、自分が持っているシステナだ。
今週の物差しで見れば、システナは人数への依存を最も減らせている会社だった。2年で本体の社員を減らし、売上を2割以上、営業利益を6割伸ばした。それなのに、値段は海外の人月の会社と同じか、それより低い。
市場は、システナの今期の減速(純利益6.0%減の予想)を重く見ている。10月29日に発表した4〜9月期の決算では、7〜9月期の営業利益が前年から8.7%減った。4〜9月期の累計では営業利益0.5%減とほぼ横ばいで、通期の予想と年18円の配当予想は変えていない。それでも株価は下げた。
市場は、システナを「典型的な人月の会社」として、海外の3社と同じ箱に入れている。
今週わかったこと
月曜の問い「AIは『人数×単価』の式を壊すのか」に対して、今週の9社から見えた答えはこうだ。
| 見えたこと | |
|---|---|
| 米国・インド | 式はまだ壊れていない。だが、単価が下がり始め、市場は壊れる側に賭けた値段をつけている |
| 日本 | 人手不足のおかげで、単価はまだ上がっている。市場もまだ上乗せを残している |
| 件数で稼ぐ会社 | AIの効果が利益率に乗る。ただし客の側の人数が減るリスクを抱える |
自分の持ち株から見ると、こうなる。
| 銘柄 | 実際÷理論 | 今週の見立て |
|---|---|---|
| SHIFT | 3.07 | 物差しの3つにそろって答えているが、9社でいちばん高い値段。単価が下がり始めたら、上乗せがいちばん大きく剥がれる |
| 辻・本郷IT | 1.59 | 業務代行の継続収入を伸ばせれば、人月から離れられる。11月の決算で、通期予想を達成できたかを確かめる |
| システナ | 1.03 | 人数への依存をいちばん減らせているのに、海外の人月の会社と同じ値段。3社でいちばん安心して持てる |
3社とも持ち続ける。ただ、持ち方は同じではない。SHIFTは単価の動きを、辻・本郷ITは11月の決算を、システナは配当を見続ける。
Week12では、核融合の部材メーカーの値段を決めていたのはAIへの近さだった。今週は、ITサービスの会社の値段を決めているのが、AIで単価が下がる側か、まだ上がる側かだった。どちらの週も、株価の上乗せを決めているのはテーマそのものではなく、AIとの距離だった。
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