浜松ホトニクス——レーザー核融合の最前線にいる会社が、いちばん安いわけではない
火曜のフジクラは、磁場型の核融合の心臓部を作る会社だった。ただし利益の9割以上はデータセンターが稼ぎ、核融合は株価の「おまけ」だった。
今日はもう一つの方式、レーザー型を見る。日本からは浜松ホトニクス、米国からはコヒーレントだ。どちらも大出力のレーザーを作り、どちらもレーザー核融合の研究に部品や技術を出している。
結論を先に書くと、2社は同じ技術を持ちながら、株価を動かしているものがまったく違う。
レーザー型の核融合とは
月曜に書いたとおり、核融合には大きく2つの方式がある。磁場型は磁石でプラズマを閉じ込め、レーザー型は燃料の小さな粒に四方からレーザーを一気に当てて押しつぶし、核融合を起こす。
2022年12月、米国のローレンス・リバモア国立研究所の実験施設NIFが、レーザーで入れたエネルギーより多くのエネルギーを核融合で取り出すことに成功した。核融合の研究で長く目標とされてきた「点火」だ。
ただ、発電所にするには大きな壁がある。NIFのレーザーは、1日に1回程度しか撃てない。発電所では、1秒間に何回も燃料を撃ち続ける必要がある。
そこで必要になるのが、半導体レーザーで動かす固体レーザーだ。NIFのレーザーは、カメラのフラッシュのようなランプの光でレーザーの材料を光らせている。これを半導体レーザーに置き換えると、エネルギーの変換効率が上がり、速く何度も撃てるようになる。浜松ホトニクスとコヒーレントは、どちらもこの半導体レーザーを作っている。
浜松ホトニクス:世界最高クラスの出力を出す
浜松ホトニクスは、光センサーの会社として知られている。医療機器や分析装置、半導体の検査装置に使われる、光を検出する部品が本業だ。
その一方で、光を出す側、つまりレーザーの開発も長く続けてきた。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2024年5月 | デンマークのファイバーレーザーメーカー、NKTフォトニクスの買収を完了(取得額約439億円) |
| 2025年7月 | 大阪大学発のレーザー核融合スタートアップEX-Fusionと、燃料に見立てた粒に1秒10回のレーザーを1時間連続で当てる実験に成功。民間企業同士では世界初としている |
| 2025年8月 | 半導体レーザーで動かす固体レーザーとして世界最高の出力(1回200ジュール、1秒10回、平均2キロワット)を達成したと発表 |
次の目標は、1回1,000ジュールを1秒10回撃てるレーザーだ。EX-Fusionは、2028年に1,000ジュールのレーザーを実現し、2040年をめどに1万ジュールを1秒10回撃てるようにする計画を示している。発電所には、この1万ジュール級のレーザーを100本以上組み合わせる構想だ。
レーザー核融合の、日本の民間の最前線にいる会社と言っていい。
コヒーレント:米国の実験施設に部品を納める
コヒーレントは、米国の光学部品・レーザーの大手だ。
核融合との関わりはこうなっている。
| 内容 | 詳細 |
|---|---|
| NIFへの部品供給 | レーザーを燃料に集める最終段の大型レンズ(40cm角)を納めている。大型の精密な非球面レンズを量産できる、世界でも数少ないメーカーの一つ |
| 半導体レーザー | 固体レーザーを動かすための高出力の半導体レーザーのモジュール |
| STARFIRE | 2025年9月、ローレンス・リバモア国立研究所が率いるレーザー核融合発電の研究拠点で、半導体レーザー技術の作業部会に参加 |
年次報告書でも、研究開発の項目の一つに「レーザー慣性核融合」向けの半導体レーザーの高出力化を挙げている。
物差し①:株価を動かしているもの
ここで、2社の本業を見る。
| 浜松ホトニクス | コヒーレント | |
|---|---|---|
| 本業 | 光センサー(医療・分析・半導体検査向け) | AIデータセンター向けの光トランシーバー |
| 直近の業績 | 2026年9月期の営業利益予想220億円(前期比+36.1%) | 2026年6月期の売上71.2億ドル(前期比+22.5%) |
| 本業の中身 | 3年続いた減益からの回復途上 | 4〜6月期の売上の約79%がデータセンター・通信 |
コヒーレントは、火曜のフジクラと同じ形をしている。売上の8割近くがAIデータセンター向けで、株価もそこで動いている。核融合への関わりは本物だが、会社全体から見れば小さい。
浜松ホトニクスは、まったく違う形をしている。営業利益は、2022年9月期の570億円をピークに、3年続けて減ってきた。
| 決算期 | 営業利益 |
|---|---|
| 2022年9月期 | 570億円 |
| 2023年9月期 | 567億円 |
| 2024年9月期 | 321億円 |
| 2025年9月期 | 162億円 |
| 2026年9月期(予想) | 220億円 |
今期は回復に転じる見通しだが、それでもピークの4割に届かない。浜松ホトニクスの株価を動かしているのは、AIの期待ではなく、本業がどこまで元の稼ぐ力に戻るかだ。
物差し②:核融合の売上は、どちらも見えない
核融合向けの売上は、どちらの会社も決算の数字としては見えてこない。
浜松ホトニクスの核融合は、まだ研究開発の段階だ。1,000ジュール級のレーザーを作れるかどうかを確かめている途中で、発電所向けに大量のレーザーを納めるのは、EX-Fusionの計画どおり進んでも2040年前後の話になる。
コヒーレントも、NIF向けの部品は実験施設向けの納入で、売上の柱になるような規模ではない。
物差し③:核融合が実現しなかったら、何が残るか
コヒーレントは、AIデータセンターの事業が残る。ただし火曜のフジクラと同じく、その本業自体がAIへの期待で伸びている事業だ。
浜松ホトニクスは、光センサーの事業が残る。こちらはAIの期待とは別の、医療・分析・半導体検査という地味だが長く続いてきた事業だ。
評価を並べる
| 指標 | 浜松ホトニクス | コヒーレント |
|---|---|---|
| 時価総額 | 6,795億円 | 約461億ドル(約7.3兆円) |
| PER | 35.2倍(予想) | 56.6倍(実績)、約30倍(会社見通しから概算) |
| PBR | 1.98倍 | 約4.2倍(計算値) |
| ROE | 4.4%(実績) | 約7.4%(計算値) |
| 理論PBR(ROE÷8%) | 0.55倍 | 0.92倍 |
| 実際÷理論 | 3.60 | 4.59 |
| 配当利回り | 1.79%(予想) | なし |
※2026年10月21日時点(コヒーレントは直近の米国市場の値)。円換算は1ドル=158円で概算。 ※コヒーレントのPBRは時価総額を6月末の株主資本109.0億ドルで割った計算値。ROEは2026年6月期の純利益8.05億ドルを6月末の株主資本で割った計算値。会社見通しからのPERは、7〜9月期の調整後1株利益の見通し(1.85〜2.05ドル)の中央値を4倍して年換算した概算。
どちらも、理論値を大きく上回る値段がついている。ただ、上乗せの意味は2社でまったく違う。
コヒーレントの4.59は、AIデータセンター向けの成長への期待だ。会社は7〜9月期の売上を22〜24億ドルと見込み、直前の4〜6月期(20.5億ドル)からさらに伸びる見通しを示している。会社見通しから概算したPERは約30倍まで下がる。今の利益は低いが、これから急に伸びることに値段がついている。
浜松ホトニクスの3.60は、ROEが4.4%まで落ちていることの裏返しだ。今期の予想純利益175億円を自己資本(約3,170億円)で割っても、予想ROEは約5.5%にとどまる。それでもPBRが2倍近くあるのは、市場がROEがかつての水準まで戻ることを見込んでいるからだ。2022年9月期の営業利益は570億円あった。
ここで、Week08の原子力で見えた構図を思い出す。「テーマを、やっている会社ほど安く、語っている会社ほど高い」。
レーザー核融合の研究に、自社の技術で正面から取り組んでいるのは浜松ホトニクスだ。世界最高クラスの出力を出し、スタートアップと組んで実験を重ねている。それでも、時価総額はコヒーレントの10分の1に満たない。
核融合を「やっている」会社が安く見えるのは、核融合のせいではなく、本業の利益が落ちているからだ。そして核融合への関わりが会社全体から見れば小さいコヒーレントは、AIで高い。核融合は、どちらの株価もほとんど動かしていない。
保有していない立場から見て
浜松ホトニクスもコヒーレントも保有していない。
コヒーレントは、火曜のフジクラと同じ理由で、核融合に賭ける株にはならない。持つことになるのはAIデータセンターの行方で、PBR4倍超、無配という水準は、自分の買い方とは合わない。
浜松ホトニクスは、見方が分かれる。今のPER35倍、ROE4.4%という数字だけを見れば、割安とは言えない。ただ、利益がピークの4割に届かない状態で、PBRは2倍を切っている。本業がかつての稼ぐ力に戻るなら、今の値段は違って見える。そして戻ったときには、レーザー核融合という長い選択肢もついてくる。
買うかどうかを決めるのは、核融合ではなく、光センサーの本業がどこまで戻るかだ。11月に発表される2026年9月期の決算と、来期の見通しを確認する。
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