アメリカン・エキスプレス——預金に3%払っても、ROEは36%
月曜と火曜で、預金ベータの低さは「金利で儲かる仕組み」であり、「取り付けに強い仕組み」でもあると書いてきた。JPモルガンは預金全体に約1.7%しか払っていない。政策金利の半分以下だ。
今日のアメリカン・エキスプレス(アメックス)は、この話の反対側にいる会社だ。預金にはほぼ政策金利並みの金利を払っている。それでもROEは36%を超える。
先週のジャックスと同じ「カード・信販」の会社でありながら、なぜここまで評価が違うのか。答えは、お金の集め方ではなく、何を売っているかにあった。
※アメックスの7〜9月期決算は10月23日に発表予定のため、本記事は4〜6月期の数字を使う。
預金に払う金利は、政策金利とほぼ同じ
アメックスも銀行を持ち、預金を集めている。4〜6月期の米国内の預金はこうなっている。
| 預金の種類 | 平均残高 | 支払っている金利 |
|---|---|---|
| 普通預金 | 1,207億ドル | 3.1% |
| 当座預金 | 34億ドル | 1.4% |
| 定期預金(直接) | 79億ドル | 3.8% |
| 定期預金(証券会社経由) | 93億ドル | 4.2% |
| スイープ口座(証券会社経由) | 148億ドル | 4.0% |
| 合計 | 1,561億ドル | 3.3% |
同じ時期の米国の政策金利は3.5〜3.75%だった。アメックスが預金に払っている金利は3.3%で、政策金利とほとんど変わらない。一年前は3.8%で、政策金利が下がった分だけ、預金金利もそのまま下がっている。
JPモルガンとの違いは、利息のつかない預金がほとんどないことだ。JPモルガンの預金の4分の1は企業の決済口座や給与振込の口座で、金利ゼロでも動かない。アメックスの預金の大半は、ネットで集める高金利の普通預金だ。金利で選ばれている預金なので、金利が上がれば預金金利も上げないと逃げていく。
月曜の言葉で言えば、預金ベータが高い側にいる。資金調達の約7割をこの預金に頼り、残りは社債などで賄っている。
ただし、SVBとは中身が違う。SVBの預金はスタートアップとVCに偏り、1口座あたりの金額が大きかった。アメックスの預金は個人向けの普通預金が中心で、一部の預金者が一斉に動くような偏りはない。高くつくのはコストであって、逃げ足ではない。
それなら、利ざやで稼ぐ銀行としては不利なはずだ。実際、そうはなっていない。
稼ぎの4分の3は、金利と関係がない
4〜6月期の収益の内訳を見ると、理由がはっきりする。
| 収益の種類 | 金額 | 構成比 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 加盟店手数料 | 101.6億ドル | 52% | +9% |
| カード年会費 | 28.6億ドル | 15% | +15% |
| その他の手数料 | 19.6億ドル | 10% | +7% |
| 純金利収入 | 46.5億ドル | 24% | +11% |
| 合計 | 196.4億ドル | 100% | +10% |
純金利収入は全体の4分の1にすぎない。稼ぎの4分の3は、お店から受け取る手数料と、会員から受け取る年会費だ。
アメックスは、カードを発行し、お店と加盟店契約を結び、決済ネットワークも自前で持っている。Visaやマスターカードはネットワークだけ、多くの銀行はカードの発行だけを担う。アメックスはこの3つを一社で抱えているので、カードが使われるたびに発生する加盟店手数料を丸ごと受け取れる。
そして、その手数料を生むのが会員の使う金額だ。会員1人あたりの利用額は四半期で6,759ドル(約107万円)。発行枚数は8,760万枚ある。
年会費も伸びている。主力のプラチナ・カードは2025年9月に米国の年会費を695ドルから895ドルへ引き上げた。値上げしたのに、カード年会費の収入は前年から15%増えた。会員が値上げを受け入れているということだ。
金利がどちらに動いても、柱は揺れない
残る4分の1の純金利収入も、金利の影響を受けにくい形になっている。
米国のカードの分割払い(リボ払い)の金利は、多くが政策金利に連動する変動金利だ。預金のコストが政策金利と一緒に動くなら、貸し出す側の金利も一緒に動く。実際、4〜6月期の利払いは前年より減った一方で、純金利収入は11%増えている。
調達コストが政策金利と連動していても、稼ぎの柱である手数料と年会費は金利と関係がなく、金利差の部分も両側が一緒に動く。預金ベータが高くても、それが弱点にならない構造だ。
ジャックスと並べる
先週の水曜に取り上げたジャックスは、同じカード・信販の会社でも、ちょうど反対の位置にいる。
ジャックスは預金を集められないので、銀行からの借入と社債でお金を調達している。有利子負債は約2.8兆円で、その約3割が変動金利だ。長期の借入は平均約5年で、毎年数千億円分の借り換えが発生する。金利が上がれば、時間差で確実に調達コストが上がっていく。
一方で、稼ぐ側の金利はすぐには上がらない。分割払いやオートローンは契約時に手数料率が固定され、既存の契約には金利上昇を転嫁できない。ジャックスは2024年度に分割払いの手数料率を引き上げたが、収益に反映されるまでには返済期間に応じて数年かかる。新しい契約の手数料率を上げれば、太陽光発電やオートローンのように他社にシェアを奪われる分野も出てくる。
| アメックス | ジャックス | |
|---|---|---|
| 主な稼ぎ | 加盟店手数料と年会費(約4分の3) | 分割払い・ローンの立て替え |
| お金の集め方 | 預金(約7割)と社債 | 銀行借入と社債(有利子負債約2.8兆円) |
| 調達コストが上がると | 貸出金利も連動して動く | 既存契約は固定、転嫁に数年 |
| ROE | 36.4%(直近12カ月) | 5.6%(2026年3月期) |
数字にもそのまま出ている。
| アメックス(2026年4〜6月期) | ジャックス(2026年4〜6月期) | |
|---|---|---|
| 売上(営業収益) | 前年比+10% | 前年比+3.3% |
| 利益 | 純利益+8% | 経常利益-3.8% |
| 通期の見通し | 増収率を10%に上方修正 | 経常利益110億円(前期比-45.7%) |
ジャックスは今期、純利益も100億円(前期比-34.7%)と大幅な減益を見込んでいる。理由は、調達金利の上昇による金融費用の増加と、データセンター移転などのシステム関連費用だ。
さらに気になるのが、中期経営計画の前提だ。ジャックスは2028年3月期に経常利益310億円を目標に掲げているが、その計画は政策金利が最終的に1%で止まることを前提にしていた。日銀の政策金利は9月に1.25%まで上がり、追加利上げもまだ議論されている。前提はすでに越えている。
火曜の三菱UFJとつながる
ジャックスは2026年5月、三菱UFJ銀行を引受先として約391億円の第三者割当増資を行った。発行済株式数は28.5%増え、1株利益はその分薄まっている。中期経営計画では、三菱UFJ銀行の出資比率を2割から4割へ引き上げる方針を掲げている。
火曜に見た三菱UFJは、ジャックスの大株主として関係をさらに深めている。預金を集められないジャックスにとって、メガバンクとの結びつきは資金調達の面でも意味を持つはずだ。それが調達コストの上昇をどこまで和らげるのかは、まだ数字には出ていない。
評価を並べる
| 指標 | アメックス | ジャックス |
|---|---|---|
| 時価総額 | 約2,092億ドル(約33兆円) | 1,547.8億円 |
| PER | 18.8倍(実績) | 15.4倍(予想) |
| PBR | 約6.4倍(計算値) | 0.52倍 |
| ROE | 36.4% | 5.6% |
| 理論PBR(ROE÷8%) | 4.55倍 | 0.70倍 |
| 実際÷理論 | 1.41 | 0.74 |
| 配当利回り | 1.23% | 5.82%(予想) |
※ジャックスは2026年10月14日時点、アメックスは直近の米国市場の終値ベース。データソースは日米で異なる。円換算は1ドル=158円で概算。 ※アメックスのROEは会社開示の直近12カ月。ジャックスのROEは2026年3月期の実績値。 ※アメックスのPBRは、時価総額を6月末の普通株の自己資本(1株純資産48.42ドル×発行済株式6.75億株=約327億ドル)で割った計算値。 ※アメックスの配当利回りは、四半期配当0.95ドルの年換算(3.80ドル)ベース。
アメックスは、理論値に対して1.41倍の上乗せがついている。火曜に見たJPモルガン(1.19)や三菱UFJ(1.27)よりも大きい。市場は、36%というROEがこの先も続き、さらに伸びると見ている。会社は今期の増収率見通しを10%に引き上げ、年会費の値上げも会員に受け入れられた。その実績が、上乗せの根拠になっている。
ジャックスは、実績ROEの5.6%で見ると、理論値の0.70倍に対して0.74と、割り引かれている。ところが、今期の予想純利益100億円を自己資本で割った予想ROEは約3.3%(概算)しかない。これで理論PBRを出し直すと0.41倍で、実際の0.52倍は1.27倍の上乗せに変わる。
どちらの物差しを使うかで、割安にも割高にも見える。今の利益水準から見れば、ジャックスの株価はむしろ高い側にある。それを支えているのは利益ではなく、配当利回り5.82%と、1株200円という配当の下限だ。
保有していない立場から見て(アメックス)
アメックスは保有していない。
月曜から「預金ベータの低さが強さ」と書いてきたが、アメックスはその物差しでは測れない会社だった。預金に政策金利並みの金利を払っても、稼ぎの柱が金利と関係なければ、預金ベータの高さは弱点にならない。金融株を見るときに、お金の集め方だけでなく、何を売っているかを先に見る。今週いちばんの収穫はこれだ。
ただ、ROE36%の会社には相応の値段がついている。株価は52週高値の387ドルから2割ほど下にあるが、それでもPBRは6倍を超え、配当利回りは1.2%台だ。配当を目当てに割安なところを拾うという自分の買い方では、手を出す場所がない。
保有している立場から(ジャックス)
保有中(含み損益 -8.4%/取得単価 約3,750円)
ジャックスは配当狙いで保有している。配当株を売るのは、無配・減配、または経営不振で配当株として見られなくなったときだ。
今のところ、その条件には当たらない。今期の年間配当は200円で据え置き、会社は1株200円を下限とする方針を示している。ただし、予想配当性向は89.5%まで上がっている。利益が予想からさらに下振れすれば、下限200円の方針が試される。
アメックスと並べて分かったのは、ジャックスの減益が一時的なつまずきではなく、金利が上がる局面で必ず不利になる構造から来ていることだ。調達コストは時間差で上がり、稼ぐ側の手数料率は時間差でしか上がらない。日銀の利上げが続く限り、この差はしばらく埋まらない。そして今の株価は、利益ではなく配当に支えられている。配当の下限が崩れれば、株価を支えるものがなくなる。
次に決算を見るときは、利益の水準よりも、金融費用の伸びと手数料率の改善のどちらが速いか、そして配当の下限200円が維持されるかを確認する。
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