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Week 11 — 海外金融
2026.10.14  ·  火曜 / JPモルガン・チェース(JPM) 深掘り

JPモルガン・チェース——含み損を抱えても、預金が逃げない銀行

月曜の結論は、SVBを潰したのは債券の含み損そのものではなく、含み損を「確定損」に変えてしまう、逃げ足の速い預金だったというものだった。

では、その逆はどうなるのか。含み損を抱えていても、預金が逃げない銀行。2023年の銀行危機で、逃げた預金の受け皿になり、最後にはファースト・リパブリック・バンクを引き受けた側の銀行。それが今日のJPモルガン・チェースだ。

ちょうど10月13日に、7〜9月期の決算が出た。その数字から、「預金の質で勝つ」とはどういうことかを確かめる。

7〜9月期決算:数字の確認

項目2026年7〜9月期前年同期
純利益153億ドル144億ドル
1株利益(希薄化後)5.57ドル5.07ドル
ROE(年率)17%17%
純金利収入270億ドル240億ドル
預金残高(期末)2兆7,808億ドル2兆5,485億ドル
CET1比率(普通株等Tier1)13.9%14.8%

前の4〜6月期は、Visa株に絡む一時的な利益(46億ドル)が乗って純利益が212億ドルまで膨らんでいた。それを除けば、7〜9月期は前年からおおむね1割の増益で、ROEも17%と平常運転の水準にある。

ここで見るべきは利益の大きさではない。月曜に書いた二つのこと、預金の中身と、含み損の重さだ。

預金の中身:4分の1は金利ゼロ

7〜9月期の平均で見ると、JPモルガンの預金は次のような構成になっている。

預金の種類平均残高支払っている金利
利息のつかない預金6,551億ドル0%
利息のつく預金2兆789億ドル2.18%
預金全体2兆7,340億ドル約1.66%(計算値)

利息のつかない預金が全体の約4分の1ある。企業の決済口座や、個人の給与振込・引き落とし用の口座だ。これらは「お金を置いておく場所」ではなく「お金が通り抜ける場所」なので、金利がつかなくても動かない。

同じ時期の米国の政策金利は3.5〜4.0%だった。それに対して、JPモルガンが預金全体に払っている金利は約1.7%。政策金利の半分以下のコストで、2.7兆ドルの預金を集めていることになる。

この預金を支えているのが、規模だ。米国内の支店は5,164、モバイルアプリを使う個人客は約6,500万人。企業向けの決済事業には、平均で1.2兆ドルを超える顧客の資金が置かれている。

スタートアップとVCに偏り、1口座あたりの金額が大きく、一晩で一斉に動いたSVBの預金とは、性質がまるで逆だ。

日本のメガバンクと比べると

参考までに、三菱UFJ銀行の円普通預金金利は現在0.4%で、9月の日銀の利上げ(1.25%へ)を受けて11月2日から0.5%に上がる。政策金利が0.25%上がったのに対し、普通預金金利の引き上げは0.1%にとどまった。

普通預金だけの比較なので厳密ではないが、日米どちらのメガバンクも、政策金利よりはるかに低いコストで預金を集めている点は同じだ。違うのは金利の水準で、米国の方が利ざやを稼げる「幅」そのものが大きい。

含み損の重さ:SVBとの決定的な違い

JPモルガンにも、債券の含み損はある。

満期まで持つ前提の債券(満期保有債券)は、帳簿上2,746億ドルに対して、9月末の時価は2,487億ドル。約259億ドルの含み損だ。さらに7〜9月期は長期金利の上昇で、売却可能な債券の評価損も膨らみ、自己資本を約79億ドル押し下げた。月曜に「7〜9月期は含み損がもう一段膨らんでいる可能性が高い」と書いたが、JPモルガンについてはその通りになった。

ただし、重さがまったく違う。

SVB(2022年末)JPモルガン(2026年9月末)
満期保有債券の含み損自己資本とほぼ同じ規模約259億ドル
比べる相手自己資本CET1資本 約3,041億ドル
資本に対する重さほぼ100%約9%

SVBは、含み損が確定した瞬間に自己資本が消える状態だった。JPモルガンは、仮に満期保有債券の含み損を全部確定させても、資本の1割弱が削れるだけだ。そもそも預金が逃げないので、確定させる必要もない。

金利の動きに対する利益の感応度も小さい。会社の試算では、金利が一斉に1%上がると純金利収入は年14億ドル増え、1%下がると22億ドル減る。年間1,000億ドルを超える純金利収入から見れば、どちらに振れても数%の話だ。

金利が上がっても下がっても、大きくは揺れない。 これが、月曜に書いた「取り付けに強い仕組み」の、平時の姿だ。

一方で、変化もある。CET1比率は前年の14.8%から13.9%まで下がり、7〜9月期の自社株買いは約11億ドルと、前の四半期(約67億ドル)から大きく絞られた。債券の評価損が資本を削ったことと無関係ではないはずだ。含み損は「潰れる・潰れない」の話にはならなくても、株主への還元の余力には効いてくる。

三菱UFJと並べる

最後に、日本のメガバンクの代表である三菱UFJフィナンシャル・グループと並べる。

指標JPモルガン・チェース三菱UFJ
時価総額約9,014億ドル(約142兆円)42.1兆円
PER16.9倍(2025年実績)16.7倍
PBR2.52倍1.80倍
ROE17%11.3%
理論PBR(ROE÷8%)2.13倍1.41倍
実際÷理論1.191.27
配当利回り1.95%2.70%(予想)

※株価指標は2026年10月13日時点(JPモルガンは米国市場の終値ベース)。円換算は1ドル=158円で概算。 ※JPモルガンのROEは会社開示の7〜9月期(年率)。三菱UFJのROEはデータソースの実績値。 ※JPモルガンのPBRはデータソースの値(優先株を含む自己資本ベース)。普通株だけの1株純資産(9月末132.30ドル)で計算すると約2.56倍になる。 ※JPモルガンの配当利回りは、9月に引き上げた四半期配当1.65ドルを年換算(6.60ドル)して計算。

規模は3倍以上、ROEは1.5倍、PBRも1.4倍。ここまでは「JPモルガンの方が稼ぐ力が強いので、高く評価されている」という分かりやすい話だ。

面白いのは、ROEから出した理論PBRと比べたときだ。理論値に対する上乗せは、三菱UFJの方が大きい。

三菱UFJは今期を最終年度とする中期経営計画で、ROE目標を9%程度から12%程度に引き上げた。今期の純利益予想は2.7兆円で、4期連続の最高益を見込む。ROE12%で理論PBRを計算し直すと1.5倍で、実際÷理論は1.20。JPモルガンとほぼ同じ水準に並ぶ。

つまり市場は、三菱UFJについては**「これからROEが上がる」ことを先に織り込んでいる**。日銀の利上げが続く前提で、日本の銀行がJPモルガン型の稼ぐ力に近づいていく。その期待の分だけ、株価が先に動いている。

もう一つ付け加えると、三菱UFJは米モルガン・スタンレーに出資し、その利益を持分法で取り込んでいる。日本のメガバンクの評価には、すでに米国の金融の稼ぎが一部混ざっている。

保有していない立場から見て

JPモルガンも三菱UFJも保有していない。

JPモルガンは、文句のつけようがない銀行だ。預金の4分の1は金利ゼロで、含み損は資本の1割弱、金利がどちらに動いても利益はほとんど揺れない。ただ、PBR2.5倍、配当利回り2%弱という水準は、割安なところを配当目当てで拾うという自分の買い方からは遠い。良い会社であることと、自分が買う値段であることは別だ。

三菱UFJも、ROE改善の期待をすでに株価に織り込んでいる。日銀の利上げが止まる、あるいは預金獲得競争で預金金利の引き上げ幅が大きくなる。そうなったときに、上乗せ分がはがれる余地がある。

そして、この二社を見たあとで、保有しているSBI新生銀行に視線が戻る。SBI新生銀行は、SBI証券と連携した預金で、メガバンクより高い金利をつけて預金を集めてきた。金利で預金を呼び込む銀行は、金利が上がる局面ほど預金コストも上がりやすい。月曜の言葉で言えば、預金ベータが高い側に寄っている。

JPモルガンの強さが「金利を払わなくても預金が集まること」にあるなら、SBI新生銀行の今後は、金利以外の理由で預金が置かれる銀行になれるかどうかで決まる。次に決算を見るときは、預金残高の伸びだけでなく、預金の中身と預金コストの推移を確認する。

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