海外金融——SVBは「含み損」ではなく「預金の質」で潰れた
先週は日本の金融株を扱った。結論は一つで、市場は「銀行かどうか」ではなく「金利で儲かる仕組み」を見ている。その仕組みの中心にあるのが、預金ベータ(政策金利が上がったときに、預金金利をどれだけ上げざるを得ないか)の低さだった。
ただ、日本の金融株だけで1週間を終えたのは、日米比較というこのブログの軸から外れていた。今週はその続編として、米国の金融を扱う。
米国は「金利のある世界」の先輩だ。日本がようやく1%台の政策金利に戻ってきたところで、米国は2022〜23年にゼロ近辺から5%超まで一気に引き上げ、その途中で銀行が一つ潰れた。2023年3月のシリコンバレー銀行(SVB)だ。
今週の月曜は、このSVBの破綻を預金ベータのレンズで読み直す。先に結論を書いておく。
SVBを潰したのは債券の含み損そのものではない。含み損を「確定損」に変えてしまう、逃げ足の速い預金だった。
いまの米国の金利:再び上がり始めた
まず足元を確認する。
| 項目 | 水準 | ポイント |
|---|---|---|
| 米政策金利 | 3.75〜4.00% | 9月16日に0.25%引き上げ。2023年7月以来の利上げ |
| 米10年債利回り | 一時5.36% | 10月7日。2002年4月以来の高さ |
| 日銀の政策金利 | 1.25%程度 | 9月18日に引き上げ。1995年以来の水準 |
| 日本の10年債利回り | 一時3.115% | 9月25日。約30年ぶりの高さ |
FRBは9月の会合で、全会一致で0.25%の利上げを決めた。声明は「インフレは高止まりしている」とし、2%目標への復帰を急ぐ姿勢をはっきり示している。背景にあるのは原油高だ。米国債市場でも原油価格の高止まりと景気の底堅さから物価高への警戒が強く、10年債利回りは約24年半ぶりの水準まで上がった。
日銀も同じ週に利上げした。日米そろって、利下げではなく利上げの議論をしている。
この状況だからこそ、3年前のSVBを振り返る意味がある。長期金利が上がれば、銀行が持つ債券には含み損が出る。 これは2023年と同じ構図だ。
SVBは何で潰れたのか
① 低金利の時代に、預金が一気に流れ込んだ
SVBはその名のとおり、シリコンバレーのスタートアップとベンチャーキャピタルを主な顧客にしていた銀行だ。コロナ禍の金融緩和でスタートアップに投資マネーがあふれ、その資金がSVBの預金口座に積み上がった。総資産は2019年の約710億ドルから、2022年には2,000億ドル超へと3倍近くに膨らんでいる。
② その預金を、長期の債券に回した
集まった預金を貸し出しだけでは使い切れず、SVBは米国債や住宅ローン担保証券(MBS)といった長期の債券を大量に買った。低金利の時代に買った、利回りの低い長期債だ。
③ FRBの急速な利上げで、債券に巨額の含み損
2022年3月から、FRBはゼロ近辺だった政策金利を約1年半で5%超まで引き上げた。金利が上がれば、低い利回りで買った長期債の価格は下がる。SVBの満期保有債券には、2022年末時点で自己資本とほぼ同じ規模の含み損が積み上がっていた。
ただし、ここまでなら「含み損」だ。満期まで持ち切れば、額面は戻ってくる。
④ 損切りと増資計画の発表が、逆に引き金になった
2023年3月8日、SVBは手元資金を確保するために債券を売却し、約18億ドルの損失を確定させたうえで、増資計画を発表した。財務を立て直すための動きだったが、預金者はこれを「この銀行は危ない」という合図として受け取った。
⑤ たった1日で、資産の約2割が消えた
翌3月9日、預金者は1日で約420億ドルを引き出した。スマートフォンから、しかもSNSで噂が広がる速さで。翌10日にはさらに約1,000億ドルの流出が見込まれ、SVBはその日のうちに当局に閉鎖された。
続いて3月12日にはシグネチャー・バンクが破綻し、5月にはファースト・リパブリック・バンクが当局の管理下に置かれ、JPモルガン・チェースが引き受けた。この「引き受けた側」のJPモルガンが、明日の主役になる。
預金ベータで読み直す
SVBの破綻を、資産側と負債側に分けるとこうなる。
| SVBの状態 | 何が問題だったか | |
|---|---|---|
| 資産側 | 低利回りの長期債を大量保有 | 金利上昇で含み損が膨らんだ |
| 負債側 | 預金の9割超が保険上限(25万ドル)超え | 預金者が偏り、逃げ足が速かった |
ポイントは、どちらか片方だけでは潰れなかったことだ。
含み損があっても、預金が逃げなければ債券を売る必要はない。満期まで持てば損は確定しない。逆に、預金が多少逃げても、含み損がなければ債券を売って払い戻せばいい。
SVBは両方そろっていた。しかも負債側の性質が極端だった。
- 預金者はスタートアップとVC。1口座あたりの金額が大きく、預金保険の外にある
- 預金者同士がつながっている。同じVCの投資先は、同じ情報で一斉に動く
- 財務担当者は金利に敏感で、より高い利回りを求めて資金を動かすことに慣れている
これは、先週使った言葉で言えば預金ベータが極端に高い預金だ。金利が上がれば、預金金利を上げないと逃げる。危ないと思えば、一晩で逃げる。
ここで先週の結論がもう一段深くなる。
預金ベータの低さは「金利で儲かる仕組み」であると同時に、「取り付けに強い仕組み」でもある。
給与振込や公共料金の引き落としに使われる生活口座、小口で数が多く、金利が少し上がった程度では動かない預金。こういう預金は、金利上昇局面で利ざやを稼がせてくれるだけでなく、銀行が含み損を抱えたときにも逃げない。同じ性質の表と裏だ。
市場が預金ベータの低い銀行に高い評価をつけるのは、儲かるからだけではない。潰れにくいからでもある。
いまの米国の銀行はどうか
2026年4〜6月期のFDIC(米連邦預金保険公社)の集計では、米国の銀行業界全体の純利益は前期比12%増の901億ドル、純利ざや(NIM)は3.32%で、国内預金は8四半期連続で増えている。数字だけ見れば、業界は健全だ。
一方で、保有債券の含み損は消えていない。3月末時点で3,251億ドル、6月末にかけても小幅に増えた。ピーク時の6,000億ドル超からは大きく減ったものの、FDICは「高水準の含み損」を課題として挙げ続けている。
そして、6月末の時点で4.6%前後だった米10年債利回りは、10月には5.3%台まで上がっている。7〜9月期の数字では、含み損がもう一段膨らんでいる可能性が高い。
ただし、SVBの教訓に従えば、含み損の大きさだけで銀行を判断するのは半分しか見ていない。見るべきは、その含み損を抱えたまま、預金が逃げずにいてくれる銀行かどうかだ。
日本の金融株を見るレンズとしても
日本も長期金利が3%台に乗り、銀行が持つ国債の含み損が話題になる局面に入っている。先週の月曜に書いた「利上げが利益を押し上げる一方で、バランスシートの別の場所に損が溜まっていく構造」は、SVBで起きたことそのものだ。
先週取り上げた保有株(SBI新生銀行・ジャックス・オリックス)も、今週はこのレンズで見直す。オリックスが預金ベータの高いオリックス銀行を手放したのは、まさに「逃げやすい預金を抱えない」判断だったとも読める。
今週登場する4社
| 曜日 | 米国 | 対になる日本(Week10) | 見る点 |
|---|---|---|---|
| 火 | JPモルガン・チェース | 三菱UFJ | 預金の質で勝つ銀行 |
| 水 | アメリカン・エキスプレス | ジャックス(保有) | 同じカード・信販で評価がなぜ違うか |
| 木 | バークシャー・ハサウェイ | オリックス(保有) | 持ち続ける会社と、買って売る会社 |
各銘柄の指標は、それぞれの個別記事で最新の数字を確認する。
火曜のJPモルガン・チェースは、2023年の銀行危機で逃げてきた預金の受け皿になり、ファースト・リパブリックを引き受けた側の銀行だ。預金の質が、危機のときにどう効いたのかを見る。
水曜のアメリカン・エキスプレスは、先週のジャックスと同じカード・信販の会社だ。金利上昇で調達コストが上がるはずの業態で、なぜ評価がここまで違うのかを確かめる。
木曜のバークシャー・ハサウェイは、預金ではなく**保険料(フロート)**という「金利をほとんど払わなくていいお金」で投資をしている会社だ。預金ベータの低い預金と、実は同じ種類の強みを持っている。保険を抱える多角化企業という点で、オリックスと並べる。
金曜は、ここに損保(MS&AD vs チャブ)、ネット金融(楽天グループ vs SoFi)なども加えて、日米の金融株を横並びにする予定だ。
米国の金融株は1銘柄も保有していない。今週の米国勢は、すべて保有していない立場から見る。ただし、対になる日本側にはジャックスとオリックスという保有株がある。米国の先輩たちと並べたときに、自分の持ち株がどう見えるのか。当事者として、そこから目をそらさずに書く。
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