アドバンテスト——「天井」で売った株が7.7倍、それでもPERは当時より低い
売却済み(2023年6月に売却)
この株は、2023年6月に売った。天井だと思ったからだ。売却価格は4,437円だった。
2026年9月30日の終値は34,260円。売った値段の約7.7倍になっている。
Week03でAI半導体を扱ったときにも一度取り上げた銘柄だが、今日は改めて正面から向き合う。当時の判断のどこが正しくて、どこが間違っていたのか。手元の数字で一つずつ確認していく。
※アドバンテストは2023年10月1日付で1株を4株に分割している。本記事の株価と1株あたりの数字は、すべて分割後の基準にそろえている。
どんな会社か
アドバンテストは、半導体テスターで世界首位の会社だ。月曜の記事で、テスト工程の3つの道具のうち、チップに電気信号を送って良否を判定する本体が「テスター」だと書いた。アドバンテストはその本体を作っている。
テスターの市場は、アドバンテストと米国のテラダインの事実上の2社寡占になっている。カスタムASICのテストではアドバンテストが約55%、テラダインが約45%を握るとされる。メモリー向けのテスターでも大きなシェアを持ち、月曜に書いたHBMの「積む前に1枚ずつ確かめる」需要を、テスター本体の側で受け止めている。
2023年6月、なぜ売ったのか
売った理由を、当時の数字で振り返る。
2023年4月、アドバンテストは2023年3月期の決算と同時に、2024年3月期の会社予想を発表した。
| 2023年3月期(実績) | 2024年3月期(2023年4月時点の会社予想) | |
|---|---|---|
| 売上高 | 5,602億円 | 4,800億円(-14.3%) |
| 営業利益 | 1,677億円 | 1,050億円(-37.4%) |
| 純利益 | 1,304億円 | 780億円(-40.2%) |
過去最高益を出した直後に、会社自身が営業利益4割近い減益を予想していた。しかもこの予想は、アナリストの予想平均も大きく下回っていた。
一方で株価は、生成AIへの期待で買われていた。売却価格の4,437円を、会社予想の1株利益(約106円)で割ると、予想PERは約42倍になる。
業績が4割落ちると会社が言っている株に、42倍のPERがついている。これは天井だと判断した。
判断の半分は、当たっていた
その後の業績を見る。
2023年7月の第1四半期決算は、売上高が前年同期比25.5%減、営業利益は68.1%減だった。10月の第2四半期決算では、スマートフォン市場の不振で採算の良いハイエンドのSoCテスターが想定より売れず、会社は通期予想を**営業利益800億円(前期比52.3%減)**へ大幅に引き下げた。
そして2024年3月期の実績はこうなった。
| 2023年3月期 | 2024年3月期(実績) | 増減 | |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 5,602億円 | 4,865億円 | -13.2% |
| 営業利益 | 1,677億円 | 816億円 | -51.3% |
| 純利益 | 1,304億円 | 623億円 | -52.2% |
| 営業利益率 | 29.9% | 16.8% | -13.1ポイント |
業績は本当に半減した。 しかも会社の当初予想よりさらに悪かった。
「業績のピークは過ぎた」という読みは、正しかったことになる。ここまでは、売った判断に間違いはない。
見誤ったのは、減益の「中身」だった
問題は、その後だ。
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 前期比 |
|---|---|---|---|
| 2024年3月期 | 4,865億円 | 816億円 | -51.3% |
| 2025年3月期 | 7,797億円 | 2,282億円 | 約2.8倍 |
| 2026年3月期 | 1兆1,286億円 | 4,991億円 | +118.8% |
| 2027年3月期(会社予想) | 1兆7,140億円 | 8,460億円 | +69.5% |
業績が半減した翌年に営業利益は2.8倍になり、その翌年にさらに倍増した。今期の会社予想の営業利益8,460億円は、売った当時の過去最高益1,677億円の約5倍にあたる。
何が起きていたのか。
2024年3月期の減益は、主にスマートフォン向けのハイエンドSoCテスターの落ち込みによるものだった。スマホ市場の不振という、いわば景気循環の谷だ。
ところが同じ時期、まったく別の需要が立ち上がり始めていた。AI向けのGPUと、それに載せるHBMだ。2023年秋の時点で、すでにアナリストは「来期はAI半導体の生産増加でSoCテスターが回復し、メモリーテスターも好調が予想される」と指摘していた。
つまり2023年のアドバンテストには、サイクルの谷と、構造変化の入口が同時に来ていた。
自分は業績が落ちるという事実だけを見て、その落ち込みがスマホという「古い需要」の一時的な谷なのか、それとも会社全体の衰えなのかを分けて考えなかった。落ちている部分ばかりを見て、立ち上がり始めた部分を見ていなかった。
株価は7.7倍、でもPERは当時より低い
ここが今日いちばん書きたかったところだ。
売ったときと今を並べる。
| 売却時(2023年6月) | 現在(2026年9月30日) | 倍率 | |
|---|---|---|---|
| 株価 | 4,437円 | 34,260円 | 約7.7倍 |
| 予想1株利益 | 約106円 | 約916円 | 約8.7倍 |
| 予想PER | 約42倍 | 37.4倍 | 低下 |
| PBR | 約8.9倍 | 約23.8倍 | 約2.7倍 |
※売却時の予想1株利益は、2023年4月時点の会社予想純利益780億円を期中平均株式数で割ったもの。現在の予想1株利益は予想PERから逆算。
株価は7.7倍になった。それなのに、予想PERは売ったときの約42倍から37.4倍へ下がっている。
株が割高になったのではない。利益がそれ以上の速さで伸びたのだ。予想1株利益は約8.7倍になっており、株価の上昇率を上回っている。
月曜の記事で「PERの逆説」について書いた。半導体装置のようなシクリカルな業種では、利益が落ち込む谷でPERは高く見え、利益が膨らむ山ではPERは低く見える。PERが高いから割高、と判断すると、谷で売って山で買うことになりやすい。
自分がやったのは、まさにそれだった。2023年6月の予想PER42倍は、利益が半減する谷の利益で計算した数字だった。高く見えて当然だった。
PBRも確認しておく。今週使ってきた理論PBR(ROE÷資本コスト8%)で見ると、売却時は2024年3月期の会社予想ベースのROEが約21%で、理論PBRは約2.7倍、実際のPBRはその約3.3倍の水準にあった。現在は予想ROEが約64%で、理論PBRは約8.0倍、実際のPBRはその約3.0倍だ。理論値に対する割高さは、売った当時と今でほとんど変わっていない。株価が7.7倍になる間に、利益の稼ぐ力が同じだけ伸びたということになる。
今のアドバンテスト
現在の会社の姿を確認しておく。
今期の第1四半期は、売上高3,675億円(前年同期比+39.3%)、営業利益1,900億円(+53.3%)。**営業利益率は51.7%**で、売上の半分以上が営業利益として残っている。2024年3月期の16.8%から、3年で利益率は3倍になった。
海外売上比率は99.1%で、第1四半期の平均レートは1ドル159円(前年同期146円)だった。円安は業績の追い風になっている。
2026年9月30日時点の指標はこうなっている。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 株価 | 34,260円 |
| 時価総額 | 約25.1兆円 |
| 予想PER | 37.4倍 |
| PBR | 約23.8倍 |
| ROE(実績) | 57.65% |
| 配当利回り | 約0.17% |
| 年初来高値 | 38,730円(2026年8月14日) |
| 年初来安値 | 19,720円(2026年3月31日) |
注目したいのは年初来の値幅だ。3月末の安値19,720円から8月の高値38,730円まで、半年足らずで株価はほぼ2倍に動いた。現在はその高値から約12%下にいる。業績の伸びは確かだが、株価の振れ幅も同じくらい大きい。
保有していない立場から見て
今日の検証から、3つのことを持ち帰りたい。
1. 業績のピークを当てても、株価の天井を当てたことにはならない 2023年の「業績は落ちる」という読みは当たっていた。それでも株価はそこから7.7倍になった。業績の山と谷を正しく読むことと、株を売るべきかどうかは、別の問題だった。
2. 減益の「中身」を分けて見る 同じ減益でも、景気循環の谷による落ち込みと、会社の稼ぐ力そのものの衰えでは意味がまったく違う。2023年のアドバンテストは前者で、しかもその裏で次の成長が始まっていた。落ちている部分だけでなく、伸び始めている部分を探すべきだった。
3. シクリカル株の高いPERは、谷の利益で計算されている 予想PER42倍は、利益が半減する年の数字だった。PERが高いことを理由に売るのは、利益がこれ以上伸びないと確信できるときだけだ。構造変化の入口では、その確信は持てない。
では今、買い戻すか。今は買わない。
予想PER37.4倍、PBR約23.8倍、配当利回り約0.17%。本業で説明がつく水準まで下がったところで入るという自分の買い方には、今のアドバンテストは合わない。
ただし、2023年の教訓を逆向きに使える場面は来ると思っている。次にアドバンテストの業績が落ちたとき、その理由がスマホのような景気循環の要因なのか、それともAI向け需要そのものの減速なのかを見分ける。 前者なら、それは2023年と同じ「谷」であり、買い場になりうる。後者なら、構造が変わったということで、見送る。
3年前に売った理由を、今度は買う理由として使えるかどうか。それを確かめるために、この銘柄は見続けていく。
明日は今週のまとめとして、ここにテラダイン、日本マイクロニクス、Technoprobe、東京精密、そして欠陥検査側のレーザーテックとKLAを加えて横並びにする。
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