半導体検査——AIが「検査」を主役に変えた
Week03でAI半導体を扱ったとき、主役はBroadcomや東京エレクトロンといった「チップを作る」側の会社だった。今週はその一段奥に入る。作ったチップが正しく動くかを確かめる工程、半導体検査だ。
きっかけは自分のポートフォリオにある。この2週間、土曜の自分株まとめで上昇TOP3に続けて入ったのが、日本電子材料とフォームファクターだった。どちらも半導体の検査に使うプローブカードのメーカーで、どちらもAI向けメモリの検査需要が追い風になっていた。
2週続けて同じ工程の会社が上がったなら、偶然ではなく構造がある。今週はそれを確認していく。
「半導体の検査」には2種類ある
まず言葉を整理しておく。半導体の「検査」と呼ばれるものには、性格のまったく違う2つがある。
| テスト工程 | 欠陥検査 | |
|---|---|---|
| 何を確かめるか | チップが電気的に正しく動くか | ウエハ上の傷・異物・パターンのずれ |
| いつ行うか | 回路ができた後 | 製造の途中、各工程の合間 |
| 主な会社(テスター) | アドバンテスト、テラダイン | レーザーテック、KLA、日立ハイテク |
| 主な会社(プローブカード) | フォームファクター、日本マイクロニクス、日本電子材料 | — |
| AIとの関係 | 直結(チップの複雑化で検査が長く、難しくなる) | 間接的(微細化の進展に連動) |
欠陥検査は「作り方が正しいか」を見る工程で、テスト工程は「できたものが動くか」を見る工程と言い換えられる。
今週はテスト工程を中心に扱う。自分の保有銘柄がこちら側にあり、AIの影響もこちらの方が直接的だからだ。欠陥検査の会社は、金曜の比較で並べる。
テスト工程の3つの道具
テスト工程では、主に3種類の装置・部品が使われる。
| 道具 | 役割 | 主な会社 |
|---|---|---|
| テスター | チップに電気信号を送り、応答を測って良否を判定する本体 | アドバンテスト、テラダイン |
| プローブカード | テスターとウエハ上のチップをつなぐ、無数の針が並んだ接点部品 | フォームファクター、Technoprobe、日本マイクロニクス、日本電子材料 |
| プローバ・ハンドラ | ウエハやチップを運んで、針の位置に正確に合わせる搬送装置 | 東京エレクトロン、東京精密、Cohu |
投資家として押さえておきたいのは、テスターとプローブカードでは商売の形がまったく違うという点だ。
テスターは1台あたり数百万ドル(数億円)の設備で、一度導入すれば何年も使う。顧客の設備投資計画に連動して売れるので、半導体の好不況の波をそのまま受ける。
プローブカードは違う。チップの設計ごとに専用に作る必要があり、しかも針が擦り減るので使い続ければ交換が要る。新しいチップが出るたびに新しいカードが必要になり、生産量が増えればそれだけ消耗も進む。設備というより、消耗品に近い性格を持っている。
同じ「検査」でも、テスターは設備投資のリズムで、プローブカードは新製品の数と生産量のリズムで動く。今週の3社を見るとき、この違いが評価の前提になる。
なぜ今、検査が主役なのか
検査工程は長い間、半導体の中で地味な存在だった。JPモルガンは、半導体製造装置全体の中でテスト装置が占める比率は長期的に低下傾向にあると指摘している。作る工程の方が技術的に難しく、お金もかかったからだ。
AIがその構図を変えた。理由は2つある。
1. AIチップが複雑になりすぎた
生成AIの学習や推論に使うGPUやカスタムASICは、トランジスタの数も、つながる端子の数も、消費電力も桁違いに大きい。検査すべき項目が増え、1個あたりの検査時間が長くなる。同じ数のチップを検査するのに、より多くのテスターが必要になる。
2. HBMは「積む前に全部確かめる」必要がある
HBM(高帯域メモリ)は、DRAMのチップを何層にも縦に積み重ねた構造をしている。ここで問題になるのは、積んだ後で1枚でも不良が見つかると、スタック全体が使えなくなることだ。だから積む前に、1枚ずつ確実に良品かどうかを確かめなければならない。
検査の回数が増え、しかも1回ごとの精度が問われる。HBMの世代が上がり積層数が増えるほど、この負担は重くなる。
その結果が、決算にはっきり出ている。テスター世界首位のアドバンテストは、2027年3月期の第1四半期に売上高3,675億円(前年同期比+39.3%)、営業利益1,900億円(+53.3%)を計上した。営業利益率は51.7%。売上の半分以上が営業利益として残る計算になる。会社は通期予想を売上高1兆7,140億円、営業利益8,460億円へ引き上げている。
製造装置の会社で営業利益率が50%を超えるのは、極めて異例だ。検査は、もはや地味な工程ではない。
市場規模:予測より、実績の方が先に進んでいる
ここで市場規模を見ておく。ただし、今週は最初に断っておくことがある。
半導体テスターの市場規模は、調査会社によって推計に大きな幅がある。 2026年の規模を約90億ドルとするものもあれば、約160億ドルとするものもある。定義の違い(テスター本体だけか、周辺装置やサービスを含むか)が大きく影響している。
それを踏まえたうえで、一つ面白い比較ができる。
アドバンテスト1社の今期売上予想1兆7,140億円を、第1四半期の平均レート1ドル159円で換算すると約108億ドルになる。調査会社が示す市場全体の推計の多くと、同じか上回る水準だ。
もちろん、アドバンテストの売上にはサービスなどテスター以外の部分も含まれるので、単純比較はできない。ただ、1社の売上が業界全体の推計に追いついてしまっているという事実は、市場調査の数字がAI需要の立ち上がりに追いついていないことを示している。
プローブカードも見ておく。こちらも推計に幅はあるが、2025〜2026年で約27億〜30億ドル規模とされ、フォームファクター、Technoprobe(イタリア)、日本マイクロニクスの上位3社で約6割を占めるという推計がある。
HBMのテスト市場は、JPモルガンの推計で2024年に約5億ドルに達した。カスタムASICのテストでは、アドバンテストが約55%、テラダインが約45%を握るとされる。
ここで、この3週間を並べてみる。
| 水素(Week07) | 原子力(Week08) | 半導体検査(Week09) | |
|---|---|---|---|
| 目標・予測と実績の関係 | 政策目標に実需がまったく追いつかない | 目標と実績の差は約2.4倍 | 実績が市場予測を追い越している |
| 市場の評価 | 水素にほぼ値段がついていない | 稼いでいる電力会社も理論値以下 | ? |
水素は目標が先行し、実需が遅れていた。半導体検査は逆で、実需が先行し、予測の方が遅れている。では株価はどう評価しているのか。今週はそこを確かめる。
評価指標の考え方
半導体の装置・部品メーカーを評価するとき、気をつけるべきことが3つある。
1. PERの逆説に注意する
半導体装置はシクリカル(景気循環型)な業種だ。好況の山では利益が膨らむのでPERは低く見え、不況の谷では利益が縮むのでPERは高く見える。PERが低いから割安、高いから割高と判断すると、山で買って谷で売ることになりやすい。 PERは、今が循環のどこにいるかと合わせて読む必要がある。
2. 受注と営業利益率を見る
売上は過去の受注の結果にすぎない。これから売上がどうなるかは、受注高や受注残の方がよく教えてくれる。そして営業利益率は、その会社がどれだけ価格決定力を持っているかを示す。寡占のテスター市場でアドバンテストが50%を超える利益率を出せているのは、代わりがいないからだ。
3. テスターとプローブカードでは、見る先が違う
テスターは顧客の設備投資計画に連動する。TSMC、SK hynix、Samsung、Micronといった大手が設備投資をどう計画しているかが、そのまま需要の先行指標になる。
プローブカードは新しいチップの設計数と生産量に連動する。設備投資が一服しても、新しいAIチップが次々に設計され、量産されている限り、カードの需要は続く。
もう一つ、日本企業に特有の要素として為替がある。アドバンテストの海外売上比率は99.1%で、第1四半期の平均レートは1ドル159円(前年同期146円)だった。円安は業績の追い風になっているが、裏を返せば円高に振れれば同じだけ逆風になる。
今週登場する3社
| 曜日 | 銘柄 | コード | 位置づけ | スタンス |
|---|---|---|---|---|
| 火 | 日本電子材料 | 6855 | 国内のプローブカード。メモリ向けに強み | 保有中 |
| 水 | フォームファクター | FORM | プローブカードの世界大手 | 保有中 |
| 木 | アドバンテスト | 6857 | テスターの世界首位 | 売却済み |
各銘柄の指標は、それぞれの個別記事で最新の数字を確認する。
火曜と水曜は、ここ2週間の自分株まとめで続けて上昇TOP3に入ったプローブカードの2社になる。同じ製品を作る日米の会社で、規模も顧客層も違う。並べて見ることで、プローブカードという商売の中身がよく見えるはずだ。
木曜のアドバンテストは、Week03で一度扱った銘柄だ。そして自分にとっては、保有していたが売却し、その後大きく上昇した銘柄でもある。当時の判断を、検査という切り口から改めて見直す回になる。
金曜はここにテラダイン、日本マイクロニクス、Technoprobe、東京精密、そして欠陥検査側のレーザーテックとKLAを加えて横並びにする。
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