三菱重工業——原子力の受注は+53%、それでも株価はガスタービンで動く
先週の金曜、三菱重工について「水素のストーリーが最も豊かな会社でありながら、株価を動かしているのは防衛だ」と書いた。理論PBRの2.75倍という数字も示した。
では原子力ではどうか。日本の原発再稼働で最も恩恵を受けている企業は、間違いなくこの会社だ。 そして原子力事業は実際に伸びている。直近の四半期で受注は前年同期比+53%、売上は+50%。
それでも、株価は原子力では動かない。今日はその理由を数字で確認する。
再稼働15基のうち、12基が三菱重工製
まず、日本の原発を炉型で分けるところから始める。
商業用の軽水炉には加圧水型(PWR)と沸騰水型(BWR)がある。国内ではPWRを三菱重工が、BWRを日立GEニュークリア・エナジーと東芝が担当してきた。関西電力、九州電力、四国電力、北海道電力がPWRを、東京電力、中部電力、東北電力、中国電力などがBWRを採用している。
この区分で、再稼働済みの15基を分けるとこうなる。
| 炉型 | 基数 | 該当する原子炉 |
|---|---|---|
| PWR(三菱重工製) | 12基 | 美浜3、大飯3・4、高浜1〜4、伊方3、玄海3・4、川内1・2 |
| BWR | 3基 | 柏崎刈羽6、女川2、島根2 |
再稼働した15基のうち8割が三菱重工の炉だ。
原発は建てて終わりではない。定期検査、部品交換、蒸気発生器の取り替え、そして新規制基準に対応するための安全対策工事。稼働している限り、メーカーには継続的に仕事が入り続ける。再稼働が進むほど、この会社の仕事は増える。
昨日のJパワーは、原子力の電力会社でありながら稼働中の原発を1基も持っていなかった。三菱重工はその正反対の位置にいる。動いている原発の8割に関わっている。
SRZ-1200:福島後、国内初の新設プロジェクト
既設炉の保守に加えて、新設の話もある。
2022年9月、三菱重工はPWRを運転する電力4社(北海道電力、関西電力、四国電力、九州電力)と共同で、革新軽水炉「SRZ-1200」の開発に着手した。出力は120万kW級。安全系設備の強化、地震・津波への耐性、テロや不測事態へのセキュリティ強化を、福島第一原発事故の教訓を反映した新規制基準を踏まえて設計している。
月曜に書いた通り、第7次エネルギー基本計画は廃炉を決めた原発の敷地内での建て替えに初めて踏み込んだ。資源エネルギー庁の試算では、2040年代までに約220万〜550万kW(2〜5基)の建て替えが必要とされている。120万kW級のSRZ-1200は、まさにこの枠に収まる規格だ。
共同開発している4社のうち、関西電力は再稼働済み7基を持つ国内最大の原発事業者になる。明日扱う会社でもある。建て替えの発注者と受注者が、すでに設計段階から組んでいる。
原子力の数字は、きちんと出ている
ここからが本題になる。
三菱重工の2026年3月期のセグメント別売上はこうなっている。
| セグメント | 売上 | 構成比 |
|---|---|---|
| エナジー | 2兆626億円 | 40.9% |
| 航空・防衛・宇宙 | 1兆3,939億円 | 27.6% |
| プラント・インフラ | 8,809億円 | 17.5% |
| 物流・冷熱・ドライブシステム | 6,308億円 | 12.5% |
原子力はエナジーセグメントに含まれる。そして会社は決算説明資料で、このセグメントの中身を主要事業別に開示している。2026年度(2027年3月期)1Qの数字がこうだ。
| 主な事業 | 1Q受注高 | 前年同期比 | 1Q売上収益 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|---|
| GTCC(ガスタービン複合発電) | 9,300億円 | +54.4% | 2,749億円 | +39.7% |
| スチームパワー | 1,608億円 | +73.1% | 869億円 | -9.7% |
| 航空エンジン | 986億円 | +57.0% | 760億円 | +28.0% |
| 原子力 | 1,555億円 | +53.4% | 803億円 | +49.5% |
原子力は受注が53%、売上が50%伸びている。 会社もエナジーセグメントの1Q増益要因として、GTCCと原子力の2つを名指ししている。
エナジーセグメント全体では、1Qの事業利益が564億円から1,013億円へ+80%、利益率は13.3%から18.9%へ改善した。全社の1Q事業利益1,596億円のうち、実に63.5%をエナジーが稼いでいる。原子力はその一翼を明確に担っている。
つまり「原子力は将来の話で、まだ儲かっていない」という理解は正しくない。すでに儲かっていて、しかも伸びている。
それでも株価が動かない理由は、規模だ
では、なぜ原子力で株価が説明できないのか。同じ表をもう一度、別の角度から見る。
GTCCの1Q受注は9,300億円。原子力は1,555億円。その差は6倍だ。
伸び率で見ればGTCCが+54.4%、原子力が+53.4%でほぼ互角。売上の伸びに至っては原子力(+49.5%)がGTCC(+39.7%)を上回っている。成長率では負けていない。絶対額が6分の1なのだ。
全社の規模に当てはめるとこうなる。
| 項目 | 原子力の1Q実績 | 年換算 | 全社見通しに対する比率 |
|---|---|---|---|
| 受注高 | 1,555億円 | 約6,220億円 | 7兆円に対して約9% |
| 売上収益 | 803億円 | 約3,212億円 | 5兆4,000億円に対して約6% |
売上の6%が5割伸びても、全社の売上は3%しか動かない。一方でGTCCは、北米とアジアでの受注が好調でセグメントの受注見通し自体を上方修正させている。株価がどちらを見るかは、計算するまでもない。
ここで、月曜に書いた話とつながる皮肉が出てくる。
原子力が再評価されている最大の理由は、AIデータセンターの電力需要だった。24時間止まらない脱炭素電源が必要になり、Microsoftやメタが原発の電力を長期契約で押さえている。
三菱重工も、この需要の恩恵をはっきり受けている。ただし原子力ではなく、GTCCで受けている。 データセンター向けの電源としていま実際に納入できるのはガスタービンであって、原子力は2030年代の話になる。同じ需要に対して、この会社は先に届く商品の方で6倍稼いでいる。
建て替え市場の規模を測る
では、原子力の新設が加わればこの比率は変わるのか。
昨日見た大間原発の総工費は約6,000億円だった。これを1基あたりの目安として、資源エネルギー庁の試算する2040年代までの建て替え2〜5基に当てはめる。
2〜5基 × 約6,000億円 = 1.2兆〜3兆円
金額だけ見れば巨大だ。ただしこれは2040年代までの累計であり、仮に今から15年かけて均等に発注されるとすれば年間800億〜2,000億円のペースになる。
これを現在の原子力受注(年換算約6,220億円)と並べると、13〜32%の上乗せになる。悪くない数字だ。既存の保守・安全対策工事に加えて、建て替えが3割近い上積みをもたらす可能性がある。
ただし全社で見れば話が変わる。年800億〜2,000億円は、年間受注高7兆円の**1〜3%**にすぎない。しかも建設工事全体の金額であり、三菱重工が取るのはそのうちの一部だ。大間のようなBWRの案件は、そもそもこの会社の担当ではない。
原子力事業にとっては大きく、会社にとっては小さい。 これが建て替え市場の正確な位置づけになる。
指標を確認する
2026年9月18日終値ベース。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 株価 | 3,879円 |
| 時価総額 | 13.1兆円 |
| 予想PER | 34.3倍 |
| PBR | 4.23倍 |
| ROE | 12.2% |
| 理論PBR(ROE÷資本コスト8%) | 約1.53倍 |
| 実際÷理論 | 約2.77倍 |
| 配当利回り | 0.75%(予想配当29円) |
| 配当性向(今期予想) | 約26% |
会社全体の業績に死角はない。2026年3月期は受注高7兆6,536億円(+19.5%)、売上収益4兆9,741億円(+14.1%)、事業利益4,322億円(+21.8%)。受注高が売上収益を1.5倍上回っているので、受注残は積み上がり続けている。今期1Qも事業利益が通期見通しの29.6%に到達した。
それでもROE12.2%を資本コスト8%で割り戻した理論PBRは1.53倍だ。実際の4.23倍は、その2.77倍の水準にある。
この差を埋めているのは、防衛とGTCCへの期待になる。9月17日には三菱UFJ銀行が防衛関連企業への融資基準を設ける方針という報道で前日比+4.01%と大きく上げた。同じ日、日本製鋼所や東京計器といった防衛関連銘柄にも買いが先行している。原子力の材料は出ていない。
保有していない立場から見て
原子力というテーマでこの会社を買うのは、筋が通らないと考えている。
理由は3つある。
1. 原子力は伸びているが、株価を動かすほどではない 受注+53%、売上+50%という数字は立派だ。だが全社売上の6%では、株価の説明変数になれない。原子力に期待して買っても、実際に値動きを決めるのは防衛とGTCCになる。テーマと値動きの原因がずれているという点は、先週の水素回とまったく同じ構図だ。
2. 建て替えが来ても構造は変わらない 年800億〜2,000億円は年間受注高の1〜3%。原子力事業にとっては3割の上積みでも、会社全体の景色は変えない。
3. 理論PBRの2.77倍 ROE12.2%は優秀だが、それで説明できるPBRは1.53倍までだ。現在の4.23倍は、防衛とGTCCの成長を相当先まで織り込んだ水準になる。昨日のJパワーが理論値の0.73倍、明日見る関西電力が0.83倍であることと比べると、今週の3社では最も期待が先行している。
企業としては何の問題もない。受注残が積み上がり、利益率が改善し、原子力もガスタービンも伸びている。買わない理由は会社の質ではなく、自分の買い方に合わないことだ。「本業で株価の説明がつく水準で入って長く持つ」というやり方をしている以上、PER34.3倍・配当利回り0.75%の株を原子力への期待で買うことはできない。
もし買うなら、それは原子力株としてではなく防衛株として買うことになる。そのときは別のテーマとして、改めて評価し直す必要がある。
明日は関西電力を扱う。再稼働済み15基のうち7基を持ち、国内で最も原発に依存している電力会社だ。三菱重工とはSRZ-1200を共同開発している関係でもある。原子力が電力会社の利益にどう効いているのかを確認できる、今週で唯一の会社になる。
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