Jパワー——稼げる仕組みは手に入れた、いつ始められるかが分からない
保有中(含み益 約+67%/2026年9月18日終値時点)
先週の水素回で、Jパワーの大間原子力発電所を「巨大な未確定要素」として保留にした。今日はその宿題を回収する。
この2週間ほどの間に、大間をめぐっては方向の違う2つの事実が並んでいた。一つは、稼働すれば投資を回収できる仕組みをすでに手に入れていたこと。もう一つは、その稼働がいつになるのか会社自身が示せなくなったこと。
稼げる仕組みは手に入れた。いつ始められるかが分からない。 今の大間は、この一文に尽きる。
大間原発とは何か
まず基本を押さえておく。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 青森県下北郡大間町 |
| 原子炉形式 | 改良型沸騰水型軽水炉(ABWR) |
| 出力 | 138.3万kW(1基) |
| 燃料 | MOX燃料(ウラン・プルトニウム混合酸化物)、低濃縮ウラン |
| 着工 | 2008年5月 |
| 運転開始 | 未定 |
出力138.3万kWは国内最大級だ。そして最大の特徴は、炉心全体にMOX燃料を装荷できる世界初の商業炉として設計されている点にある。
通常の原発はウラン燃料用に設計されているので、MOX燃料は炉心の3分の1程度までしか入れられない。大間はそれを全炉心で使える。稼働すれば年間約1.1トンのプルトニウムを消費できるとされ、使用済み燃料を再処理して生まれるプルトニウムをどう減らすかという国の核燃料サイクル政策の中で、大間は消費先として位置づけられている。
つまりこれは一企業の発電所であると同時に、国策プロジェクトでもある。やめたくてもやめにくい。この性格が、後で見る評価の話に効いてくる。
遅れの歴史
大間の計画自体は1976年にさかのぼる。着工は2008年5月。東日本大震災で工事を中断し、2012年10月に再開した。
2014年に原子力規制委員会へ新規制基準の適合性審査を申請した時点では、2021年度ごろの運転開始を見込んでいた。そこから津波や地震に関する議論が長期化し、安全対策工事の開始時期はこれまでに6回延期されている。直近の6度目は2024年9月で、このとき工事開始時期は明示されなかったが、2030年度の運転開始目標だけは維持されていた。
その目標も、2026年に入って会社自身が「極めて厳しい」と認めるようになっていた。
5月:稼げる仕組みを手に入れた
ここで、先週の水曜記事では書けていなかった事実を補っておく。
2026年5月13日、大間原発は長期脱炭素電源オークションで落札した。 落札容量は138.1万kW。新設の原発としては、この制度で初めての落札になる。
長期脱炭素電源オークションは、脱炭素電源への新規投資を促すための国の制度だ。落札した電源には、原則20年間、固定費水準の容量収入が支払われる。発電所の建設費や維持費といった固定費を、電気の市場価格に左右されずに回収できる仕組みと言っていい。
これが何を意味するか。大間が動き出せば、その時点から約20年間、建設投資を回収する収入の道筋がすでに引かれているということだ。「動かしても儲かるか分からない」というリスクは、5月の時点でほぼ消えている。
同じオークションでは、北海道電力の泊1号機も既設原発の安全対策投資の区分で落札している。原子力は脱炭素電源枠の落札容量の約46%を占めた。国が原子力への投資を制度として後押ししていることが、数字にはっきり出ている。
9月:いつ始められるかが分からなくなった
その4カ月後、流れが変わった。
2026年9月11日、Jパワーは今秋に示すとしていた安全対策工事の開始時期の提示を見送った。 大間町議会の特別委員会で、加藤英彰社長は「工事が大規模で工程の精査に時間が必要と判断した」と説明し、陳謝している。2030年度の運転開始目標については「何年ごろと自信を持ってお伝えできる状況にない」と述べた。
理由として挙げられたのは、狭い敷地に複数の大規模工事が同時に集中し、その工事量の見積もりを読み違えたことだった。専門家からは、原発の工事管理の経験が乏しいJパワーが自ら全体を仕切ること自体に無理があったという指摘も出ている。Jパワーにとって大間は初めての原発だ。
そして9月15日、加藤社長は大間の運転開始目標と工事工程を、来春公表する中期経営計画で示すと明らかにした。
整理するとこうなる。
| 時期 | 出来事 | 意味 |
|---|---|---|
| 2026年5月 | 長期脱炭素電源オークションで落札 | 稼働後の収入の枠組みが確定 |
| 2026年9月11日 | 工事開始時期の提示を見送り | 稼働時期が見通せなくなった |
| 2026年9月15日 | 来春の中計で示すと表明 | 次の判断材料が出る時期が確定 |
収入の心配はなくなった。残っているのは時間の問題だけだ。そしてその時間の見通しが、来春に出る。
大間の重さを数字で測る
では、この時間の問題は株価にとってどれくらい重いのか。
大間の総工費は、震災前の見込みが4,690億円、新規制基準への対応で1,300億円の追加投資が加わり、約6,000億円とされている(2014年時点の見込み)。その後の工事量の見直しで膨らんでいる可能性は高いが、少なくともこの規模はある。
これを現在の時価総額7,697.3億円と並べると、大間の総工費は時価総額の約8割に相当する。一つの発電所が、会社全体の株式価値に近い金額を背負っていることになる。
先週の水曜記事では、売却を考える条件として「大間原発をめぐって大きな減損が出たとき」を挙げていた。そこで、実際に減損が出た場合に指標がどう動くかを試算してみる。
PBR0.53倍と時価総額7,697.3億円から逆算すると、純資産は約1兆4,523億円になる。ここから大間の関連資産を減損した場合のPBRはこうなる。
| 減損額(仮定) | 純資産 | PBR |
|---|---|---|
| なし | 約1兆4,523億円 | 0.53倍 |
| 1,000億円 | 約1兆3,523億円 | 0.57倍 |
| 3,000億円 | 約1兆1,523億円 | 0.67倍 |
| 6,000億円 | 約8,523億円 | 0.90倍 |
※株価は変わらないと仮定し、税効果を考慮しない粗い計算。
総工費の全額にあたる6,000億円を損切りしても、PBRは0.90倍で1倍に届かない。
しかもこれは「最悪のさらに外側」の計算だ。実際の減損は投下済みの金額が対象で、総工費の見込み額より小さい。税効果も考慮すれば純資産の減少幅はさらに縮む。現実的な最悪ケースでも、PBRは0.7倍前後にとどまる計算になる。
大間を全部あきらめても、この会社は解散価値を下回る値段で取引されている。 裏を返せば、市場はすでに大間にほとんど価値を認めていない可能性が高い。
原子力株としてのJパワー
月曜の記事で、原子力関連株を3つのタイプに分けた。Jパワーは分類上は「タイプ1:電力会社」に入る。ただし中身は特殊だ。
関西電力や九州電力のような電力会社は、すでに原発を動かして利益を出している。Jパワーは稼働している原発を1基も持っていない。原子力の電力会社でありながら、原子力で1円も稼いでいない。
では、Jパワーにとって大間は何なのか。
先週の水素回で、Jパワーの水素・アンモニア投資は「既存の石炭火力を生き残らせるための延命投資」だと書いた。成長ではなく、座礁資産化を避けるための守りの投資だった。
大間は性格が違う。新しい脱炭素電源を加える投資であり、しかも稼働後の収入の枠組みまで決まっている。Jパワーの課題は、先週書いた通りROEが資本コストを下回っていることだった。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 株価 | 4,205円 |
| 時価総額 | 7,697.3億円 |
| 予想PER | 9.1倍 |
| PBR | 0.53倍 |
| ROE(実績) | 4.3% |
| 予想ROE(PBR÷PERで逆算) | 約5.8% |
| 理論PBR(予想ROE÷資本コスト8%) | 約0.73倍 |
| 配当利回り | 2.50%(予想配当105円) |
※2026年9月18日終値ベース。
ROEを資本コストの8%以上に引き上げない限り、PBRが1倍へ向かう理由は生まれない。石炭火力の延命投資ではROEは上がりにくい。138.3万kWの脱炭素電源と20年間の容量収入をもたらす大間は、ROEを押し上げる数少ない具体策の一つだ。
そう考えると、大間の遅れが意味するのは「損失の拡大」よりも「ROE改善の先送り」の方が近い。痛みではなく、待ち時間の延長だ。
保有している立場から
約+67%の含み益が乗っている。
ただ、売るかどうかを含み益の大きさで決めることはしていない。判断の基準は、その時点で割高かどうかだ。明確なルールがあるわけではなく、そこは雰囲気投資家らしく、数字を見ながらその都度考えている。そしてこの株は、とにかく割安なエネルギー配当株として買った。配当株については、無配や減配、あるいは経営不振で配当株として見られなくなったときに売りを考える。
先週の水素回で整理した通り、この+67%はPBR0.31倍という異常な安値が0.53倍という普通の安値に戻っただけで説明がつく。大間の価値が評価されたわけでも、水素が評価されたわけでもない。
その基準で見ると、今のJ-POWERは割高ではなく、持ち続ける理由もそろっている。
- PBR0.53倍は理論値0.73倍に対してまだ3割弱安い
- 大間を全額損切りしてもPBRは1倍に届かない。下値の説明がつく
- 大間は収入の枠組みを確保済みで、残るのは時間の問題だけ
- 配当は今期105円への増配予想。取得単価ベースの利回りは約4.2%
継続保有とする。
見張っておくべき点も決めておく。
一つ目は、配当方針が後退したとき。 大間の工事費が膨らめば、その負担が株主還元に回ってくる可能性がある。105円の配当が維持されるかどうかは、大間の遅れがどこまで会社の体力を削っているかを測る分かりやすい指標になる。減配が出れば、配当株として持つ前提が崩れる。
二つ目は、大間の遅れが経営そのものを揺るがし始めたとき。 来春の中期経営計画で、会社は大間の運転開始目標と工事工程を示すと明言している。そこでも目標が示されず、追加の投資負担だけが膨らんでいくようなら、配当の原資となる本業の稼ぎにも影響が及ぶ。中計の内容は必ず確認する。
明日は三菱重工業を扱う。大間を建設しているのは日立GEニュークリア・エナジーと東芝を中心とするグループだが、国内の原子炉メーカーとして再稼働の安全対策工事と次世代革新炉の開発を担っているのは三菱重工だ。先週、理論PBRの2.75倍で買われていると書いた会社が、原子力ではどう見えるか。
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