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Week 08 — 原子力・SMR
2026.09.24  ·  木曜 / 関西電力(9503) 深掘り

関西電力——原発の価値は、燃料が高い年に一番よく分かる

月曜の記事で、関西電力を「原子力が利益にどう効いているかを確かめられる数少ない実例」として予告した。

数字を開けてみると、今期1Qの営業利益は前年同期比84.2%減。そして会社の要因分析を読むと、その減益の9割近くは原発ではなく、燃料高と燃料費調整の期ずれによるものだった。原発停止の影響は1割強にすぎない。

では原子力は関電の利益にあまり効いていないのか。そうではない。むしろ逆だ。原発の本当の価値は、燃料が高い年に一番よく分かる。 今日はそれを数字で確認する。

国内最大の原発事業者

まず、関電がどういう会社かを確認する。

関西電力は再稼働済み15基のうち7基を持つ、国内最大の原発事業者だ。水曜に書いた通り、関電の原発はすべて三菱重工製の加圧水型(PWR)になる。

発電所号機出力
美浜3号機82.6万kW
高浜1号機82.6万kW
高浜2号機82.6万kW
高浜3号機87.0万kW
高浜4号機87.0万kW
大飯3号機118.0万kW
大飯4号機118.0万kW
合計7基657.8万kW

火曜のJパワーが「稼働中の原発を1基も持たない原子力の電力会社」だったのに対し、関電は「最も多くの原発を動かしている電力会社」だ。今週の3社のうち、原子力が実際に損益計算書に乗っているのはこの会社だけになる。

今期、7基のうち3基が止まっていた

2026年6月末時点の運転状況はこうなっていた。

号機状況
美浜3号機定期検査中(5月8日に高圧タービンからの蒸気漏れで原子炉を手動停止)
高浜1号機運転中
高浜2号機定期検査中
高浜3号機定期検査中(2026年4月7日〜12月上旬予定)
高浜4号機運転中
大飯3号機運転中
大飯4号機運転中

7基中3基、出力ベースで約4割が止まっていた計算になる。

高浜3号機は4月から12月上旬までの約8カ月という長期の定期検査に入っている。2026年度の定期検査では、予防保全として蒸気発生器の取り替えも計画されている。蒸気発生器は水曜に書いた「稼働している限りメーカーに入り続ける仕事」の典型で、関電のコストは三菱重工の売上になる。

美浜3号機は5月8日に高圧タービン周辺からの蒸気漏れで原子炉を手動停止した。この計画外停止は42日間に及び、この1基のトラブルだけで営業利益を約80億円押し下げた。福井県からは、長年にわたって配管の減肉管理が適切に行われていなかったと指摘を受けている。

なお美浜3号機は1976年12月の営業運転開始で、2026年に運転開始から50年を迎えた。この古さが、後で見る建て替えの話につながる。

1Qの減益を分解する

今期1Qの決算はこうなっている。

前年同期(2025年4〜6月)今期(2026年4〜6月)増減率
売上高9,178億円1兆80億円+9.8%
営業利益1,289億円204億円-84.2%
経常利益1,347億円528億円-60.8%
純利益992億円1,371億円+38.2%

売上は1Qとして過去最高を更新しているのに、営業利益は約1,085億円消えた。

では何が利益を削ったのか。主力のエネルギー事業における主なマイナス要因はこうなっている。

要因利益への影響主な内容
原子力利用率の低下△250億円利用率78.8% → 59.8%(-19.0ポイント)
燃料価格・為替△870億円原油CIF価格・円安・卸電力市場からの調達単価上昇
燃料費調整の期ずれ△600億円前年同期+330億円の押し上げ → 当期△270億円の押し下げ
高浜・大飯の燃調影響△250億円燃料費調整にかかる収支悪化
合計△1,970億円

これらのマイナスの一部を、小売での顧客獲得や不動産事業の好調などが相殺して、営業利益の減少は約1,085億円に収まっている。

注目すべきは比率だ。マイナス要因の合計△1,970億円のうち、**原子力利用率の低下は△250億円、約13%**にすぎない。残りの約87%、△1,720億円は燃料と燃料費調整に関わるものだった。

外部環境の悪化は数字で見るとよく分かる。全日本の原油CIF価格は前年同期の1バレル75.2ドルから112.7ドルへ、37.5ドル(+50%)上がった。為替は1ドル159円で、前年から15円の円安。卸電力取引所(JEPX)からの電力調達費用も370億円増えている。月曜に書いた中東情勢とホルムズ海峡の問題が、そのまま関電の損益計算書に出ている。

原発の本当の価値は「防波堤」にある

ここで「原発の影響は1割強だから、関電にとって原子力はそれほど重要ではない」と読むのは早い。

原発が止まれば、その分の電気は火力で作るしかない。そして今期は、その火力の燃料が歴史的な高値だった。原発が動いていれば、そもそも高い燃料を買う量が減っていた。

言い換えると、原子力の価値は「燃料費がかからないこと」そのものよりも、燃料が高騰したときに、その影響を受けない電源を持っていることにある。燃料が安い年には、原発と火力のコスト差はそれほど目立たない。燃料が高い年にこそ、その差が大きく開く。

今期の関電は、燃料高という高潮が来たタイミングで、防波堤の4割が点検中だった。原発停止の影響そのものが△250億円だったのではなく、原発が止まっていたことで燃料高をまともに受けた、と見る方が実態に近い。

もう一つ粗い目安を置いておく。利用率19ポイントの低下で1四半期△250億円なら、1ポイントあたり約13億円、年間に直せば約50億円になる。燃料価格や為替で変わる数字なので目安にすぎないが、利用率が10ポイント戻れば年間で数百億円の利益が戻ってくる規模感だとは言える。

期ずれは、一過性の要素を含む

△600億円の期ずれについても補足しておく。

電気料金には燃料費調整制度があり、燃料価格の変動は電気料金に反映される。ただしその反映には数カ月のタイムラグがある。燃料価格が上がる局面では、コストは先に上がり、料金への反映が後から追いかける。その間の差額が「期ずれ差損」として利益を押し下げる。

前年同期は逆に燃料価格の下落局面で、期ずれが+330億円の押し上げ要因になっていた。今期は燃料高で△270億円の押し下げ要因に反転し、差し引き△600億円のマイナスになっている。

期ずれは、燃料価格が落ち着けば解消方向に向かう性質のものだ。今期の減益のうち、この部分は恒久的な稼ぐ力の低下ではなく、タイミングのずれによる一過性の要素を含んでいる。

通期も3期連続の減益見通し

通期の数字を並べる。

2026年3月期(実績)2027年3月期(会社予想)増減率
売上高4兆566億円4兆5,000億円+10.9%
営業利益4,375億円2,500億円-42.9%
経常利益5,185億円2,900億円-44.1%
純利益3,800億円3,100億円-18.4%
1株利益341.14円278.26円—
1株配当75円80円—

経常利益は3期連続の減益になる。1Qの経常利益528億円は、通期計画2,900億円に対して進捗率18.2%で、過去5年平均の27.5%を下回るペースだ。それでも会社は通期計画を据え置いている。

1Qの純利益が+38.2%になっているのは、きんでん株式の売却による特別利益約1,050億円が乗ったためで、本業の数字ではない。本業の稼ぐ力は営業利益と経常利益の方で見るべきだ。

配当は75円から80円への増配を予定している。2025年3月期の60円から見れば、2年で3割以上の増配になる。配当性向は2025年3月期の13.8%から、今期予想で28.7%まで上がる。利益が減っても還元を削らないという姿勢は、はっきり数字に出ている。

評価指標:ROEをどちらで見るか

2026年9月24日終値ベース。

項目数値
株価2,765.5円
時価総額3.1兆円
予想PER9.9倍
PBR0.89倍
ROE(実績)11.7%
予想ROE(PBR÷PERで逆算)約9.0%
配当利回り2.89%(予想配当80円)

※3連休明けの9月24日は前日比-140円(-4.82%)と大きく下げた。会社固有の材料は確認できていない。

ここで、今週使ってきた理論PBRを当てはめる。関電の場合、どのROEを使うかで結果が大きく変わる。

基準ROE理論PBR(÷資本コスト8%)実際÷理論
原発がよく動き、燃料も落ち着いていた前期(実績)11.7%約1.46倍約0.61
原発が止まり、燃料が高騰した今期(予想)約9.0%約1.12倍約0.79

同じ会社が、見るROEによって理論値の0.61倍にも0.79倍にもなる。

この振れ幅を作っているのは、原発の稼働率と燃料市況の2つだ。そして上で見た通り、この2つは独立していない。原発が動いていれば、燃料高の影響そのものが小さくなる。

どちらで見ても理論PBRを下回っているという点は変わらない。ただ「どれくらい割安か」の答えは、原発と燃料の組み合わせ次第で倍近く変わる。

水曜の記事では、9月18日時点の数字で関電を理論値の0.83倍と書いた。今日の下落で0.79倍まで広がっている。

建て替え:美浜で、震災後初めての新設計画

ここまでは既設炉の話だった。関電にはもう一つ、将来の話がある。

2025年7月、関電は美浜発電所の敷地内で次世代原発の新設に向けた調査を始めると発表した。原発の新増設が具体化するのは、東日本大震災以降これが初めてになる。美浜町長の容認を経て2025年11月から地質調査に入り、2030年までに調査を終える予定だ。

建て替えの有力候補とされているのが、水曜に取り上げた三菱重工の革新軽水炉「SRZ-1200」だ。関電は三菱重工と共同で開発を進めてきた4社の一つでもある。発注者と受注者が設計段階から組んでいる構図が、美浜という具体的な場所で動き始めている。

美浜1・2号機はすでに廃止が決まり、稼働中の3号機は運転開始から50年を迎えた。建て替えは遠い将来の選択肢ではなく、既存の敷地を使い続けるための現実的な選択になりつつある。

ただし、投資家として一つ覚えておくべきことがある。

関電は2024年11月、42年ぶりとなる大型の公募増資を発表した。最大5,049億円を調達し、発行済株式数は約9億3,873万株から約11億1,611万株へ、約18%増えた。発表翌日の株価は18%下落している。

原発の新設には、火曜に見た大間のように1基あたり数千億円規模の投資がかかる。建て替えが本格化すれば、その資金をどう賄うかという問題が再び出てくる。 増資による希薄化は、関電の株主にとってすでに一度経験済みのリスクだ。

今週の3社を並べる

月曜に「原子力関連株は3つのタイプに分かれる」と書いた。今週扱った3社を並べると、こうなる。

Jパワー三菱重工業関西電力
タイプ電力会社(建設中)重工・メーカー電力会社(稼働中)
稼働中の原発0基—(12基を製造)7基
原子力と利益の関係まだ1円も稼いでいない伸びているが全社売上の約6%燃料高への防波堤として効いている
実際÷理論PBR約0.73(9/18)約2.77(9/18)約0.61〜0.79(9/24)

同じ原子力テーマでも、原子力と株価の距離はまったく違う。

Jパワーにとって原子力は将来の選択肢で、まだ1円も稼いでいない。三菱重工にとって原子力は伸びているが、ガスタービンと防衛の陰に隠れている。原子力の稼働が、燃料市況を通じて利益と評価を直接動かしているのは、関電だけだ。

保有していない立場から見て

原子力というテーマで電力株を1社選ぶなら、関電が最も素直な選択になる。原発の稼働が業績に直結するので、テーマと値動きの原因がずれない。水曜の三菱重工とは正反対だ。

指標の面でも、自分の買い方と相性は悪くない。PBR0.89倍で1倍を割っており、どちらのROEで見ても理論PBRを下回っている。配当は利益が減る中でも増配を続けている。そして今期の減益には、期ずれという一過性の要素が含まれている。

それでも今すぐは買わない。理由は、今期の利益がどこまで落ちるかがまだ確定していないからだ。

美浜3号機の再稼働時期は精査中で、高浜3号機の定期検査は12月上旬まで続く。燃料価格は中東情勢次第で、外からは読めない。1Qの経常進捗率18.2%は過去の平均を下回っている。原発が止まり燃料が高い今は、指標上は安く見えるが、その「悪い状態」がどこまで続くかが分からない。

買いを検討する条件は2つ。定期検査明けの稼働率回復を決算で確認できたとき、そして燃料費調整の期ずれが差損から縮小に転じたときだ。防波堤が戻り、高潮が引き始めたことが数字で確認できれば、ROEは11%台に戻る方向に動き、理論値との乖離は0.61倍側に寄っていく。

同時に、建て替えの資金調達の方針は注視しておく。2024年の増資のような希薄化が再び起きれば、原子力が稼いだ分が1株あたりでは薄まってしまう。

明日は今週のまとめとして、ここに九州電力、東京電力HD、IHI、そして海外のConstellation Energy、Oklo、NuScale Power、ウラン大手のCamecoを加えて横並びにする。

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