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Week 08 — 原子力・SMR
2026.09.21  ·  月曜 / テーマ解説

原子力・SMR——水素とは逆に、市場がすでに値段をつけているテーマ

Week04で電力インフラ、Week05で蓄電池、Week07で水素を扱ってきた。脱炭素電源のうち、まだ正面から取り上げていないのが原子力だ。

先週の水素の結論は「市場は水素にまったく値段をつけていない」だった。政策目標と実需の間には桁が3つ違う乖離があり、水素を実際にやっている会社ほど理論値より安く放置されていた。

原子力は、その逆の位置にいる。市場はすでに値段をつけ始めている。 今週はその中身を確認していく。

なお、原子力と聞いて核融合を連想する人も多いと思うが、今週は扱わない。理由は後で書く。

なぜ今、原子力なのか

理由は大きく2つある。

1. AIデータセンターの電力需要

生成AIの学習と推論には膨大な電力が必要で、しかも24時間止められない。太陽光や風力は天候で出力が変わるので、単独では安定供給の要件を満たせない。脱炭素でありながら24時間一定の出力を出せる電源として、原子力が再評価されている。

米国の大手テック企業はすでに動いている。

企業相手先規模内容
MicrosoftConstellation Energy835MWスリーマイル島1号機の再稼働。約160億ドル・20年の電力購入契約
MetaTerraPower、Oklo、Vistra、Constellation最大6.6GW新型炉の建設と既設炉からの電力購入
AmazonX-energy960MW小型炉Xe-100の開発・導入
GoogleKairos Power500MW次世代小型炉の導入

Week04で扱ったConstellation EnergyとVistraが、ここで再び顔を出している。電力インフラのテーマと原子力のテーマは、AIデータセンターという同じ需要で地続きになっている。

米国政府は2050年までに原子力発電容量を400GWへ拡大する方針を打ち出している。現状のほぼ4倍にあたる規模だ。

2. エネルギー安全保障

日本はエネルギーの大半を輸入に頼っている。中東情勢でホルムズ海峡が事実上封鎖される事態も起き、特定の燃料源に依存するリスクが改めて浮き彫りになった。原子力の燃料は長期保存がきき、一度装荷すれば長期間運転できる。安全保障上の価値は、水素や蓄電池とは別の次元にある。

SMRとは何か

SMR(Small Modular Reactor)は小型モジュール炉のことで、一般に出力30万kW(300MW)程度以下の原子炉を指す。従来の大型炉が100万kW級で現地建設だったのに対し、SMRは工場で主要部分を作り、現地で組み立てることでコストと工期を抑える発想だ。

代表的な設計を並べる。

設計開発元出力状況
BWRX-300GE Vernova日立300MWカナダ・ダーリントンで北米初のSMRとして建設中
NatriumTerraPower345MW米ワイオミング州でNRCの建設許可を取得
Xe-100X-energy80MW/基Amazonと導入計画
VOYGRNuScale Power77MW/モジュールNRCの設計認証を得た唯一のSMR
玲龍一号(ACP100)中国核工業集団125MW世界初の陸上商業SMRとして2026年上期の商業運転を目指していた

ここで押さえておきたいのは、SMRはまだ「商用で安定稼働している実績」がほとんどないという点だ。建設中や許可取得の段階にあるものが大半で、実際に電気を売って利益を出すのは2030年前後からになる。

一方で、既設の大型炉は今この瞬間も発電して利益を出している。原子力というテーマには、今稼いでいる既設炉と、これから稼ぐかもしれないSMRが同居している。 この2つを分けて見ることが、今週の評価の出発点になる。

日本の現状:再稼働は15基

日本の政策は2025年に大きく転換した。

2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画は、東日本大震災以降のエネルギー基本計画に書かれ続けてきた「可能な限り原発依存度を低減する」という文言を削除した。代わりに、再エネと並んで原子力を「最大限活用」する方針を明記し、廃炉を決めた原発の敷地内での次世代革新炉への建て替えにも初めて踏み込んでいる。

2040年度の電源構成目標は以下の通りだ。

電源2023年度実績2040年度目標
再エネ22.9%4〜5割程度
原子力8.5%2割程度
火力68.6%3〜4割程度

では実際の稼働状況はどうか。2026年9月時点の国内原発はこうなっている。

直近の大きな動きは、東京電力の柏崎刈羽6号機だ。2026年1月に原子炉を起動し、4月16日に営業運転を開始した。福島第一原発事故を起こした東京電力の原発が動くのは、事故後初めてになる。北海道電力の泊3号機も、2027年の再稼働が見込まれている。

逆方向の動きもある。中部電力は2026年1月、浜岡3・4号機の審査で基準地震動の策定プロセスにおける不適切事案を公表し、原子力規制委員会は審査の中断を決めた。その後、再稼働申請の取り下げへと進んでいる。愛知に住んでいる身としては、地元の電力会社の話でもある。

市場規模:差は「桁」ではなく「倍」

ここで先週の水素と比較すると、原子力の特徴がはっきりする。

水素(Week07)原子力(Week08)
政策目標2030年 最大300万トン/年2040年度 電源構成の2割程度
現状価格差支援の認定案件が年1,607トン規模2023年度実績 8.5%
目標との差桁が3つ違う約2.4倍
差を埋める手段新しい市場とサプライチェーンを作る既にある原発を動かす

水素の場合、目標を達成するには製造・輸送・利用のすべてを新しく作る必要があった。原子力は違う。運転可能な原子炉33基のうち、再稼働しているのは15基。 残りを動かしていけば、2割という目標は射程に入る。原発2割の達成には、30基を超える既存原発のほぼすべての再稼働が前提になる計算だ。

もちろん簡単ではない。浜岡の件が示す通り、審査は止まることもあるし、地元の同意も必要になる。ただ、達成手段が具体的で、しかも既存の資産で完結するという点で、水素とは質の違う目標だ。

さらにその先もある。資源エネルギー庁の試算では、2040年代までに約220万〜550万kW(2〜5基)、2050年代までに約1,270万〜1,600万kW(11〜14基)の原発の建て替えが必要とされている。ここからが、SMRや次世代革新炉の出番になる。

評価指標の考え方:3つのタイプを分ける

原子力関連株は、大きく3つのタイプに分かれる。それぞれ見るべき指標が違う。

タイプ1:電力会社(既設炉を持っている)

関西電力、九州電力、Jパワーなど。既設炉の稼働が利益に直結する。原発1基が動くかどうかで、燃料費が数百億円単位で変わるので、再稼働のスケジュールがそのまま業績予想になる。

見るべき指標はPER、PBR、ROE、配当利回り。Week07で使った理論PBR(ROE÷資本コスト)の考え方がそのまま使える。電力会社は伝統的にPBR1倍割れで放置されてきたが、原発が動けばROEが改善し、PBRが1倍に向かう余地が出てくる。

タイプ2:重工・メーカー(炉を作る)

三菱重工業、IHI、GE Vernovaなど。既設炉の保守・安全対策工事と、次世代炉の建設で稼ぐ。ただし原子力は事業全体の一部にすぎないので、先週の三菱重工と同じく「原子力の物語は強いが、株価を動かしているのは別の事業」という構図になりやすい。受注残と、原子力セグメントの売上比率を確認する必要がある。

タイプ3:SMRスタートアップ(これから炉を作る)

Oklo、NuScale Powerなど。売上はほぼゼロか、ごくわずか。PERはもちろん、PSRですら意味を持たない段階にある。Week07のPlug Powerと同じ位置で、評価の根拠は技術と許認可の進捗、そして大手テック企業との契約というストーリーになる。

先週の土曜に「指標で実績を確認できる銘柄と、ストーリーという雰囲気で買われている銘柄の両方を持っている」と書いた。原子力では、タイプ1が前者、タイプ3が後者になる。タイプ2はその中間だ。

核融合を今週扱わない理由

原子力の話をすると、核融合も同じテーマに入れたくなる。ただ、今週はあえて分ける。

理由は時間軸がまったく違うからだ。既設炉の再稼働は今期の利益に効く。SMRは2030年前後から商用化が始まる。核融合は、実証炉ですら2030年代、商用化はさらにその先になる。

評価の枠組みも違う。核融合関連の上場企業はまだ少なく、あっても事業の中の小さな一部門にすぎない。同じ週に混ぜると、「今稼いでいる原発」と「数十年後の夢」を同じ物差しで測ることになり、評価が破綻する。

核融合は別の週に、別のテーマとして改めて取り上げる。

今週登場する3社

曜日銘柄コードタイプスタンス
火Jパワー9513電力会社(建設中)保有中
水三菱重工業7011重工・メーカー未保有
木関西電力9503電力会社(稼働中)未保有

指標は以下の通り(2026年9月18日終値ベース)。

銘柄時価総額予想PERPBR配当利回り
Jパワー7,697.3億円9.1倍0.53倍2.50%
三菱重工業13.1兆円34.3倍4.23倍0.75%
関西電力3兆2,394億円10.4倍0.90倍2.75%

Jパワーは先週の水素回でも扱った保有銘柄だ。あのときは大間原発を「巨大な未確定要素」として保留にした。その大間について、Jパワーは9月11日、今秋に示すとしていた安全対策工事の開始時期の提示を見送り、2030年度の運転開始目標についても見通しを示せない状況にあると説明した。火曜は、その宿題を正面から回収する。

三菱重工は、先週の金曜に理論PBRの2.75倍で買われていると指摘した会社だ。あのときは「水素ではなく防衛で買われている」と書いたが、原子力はどうか。国内の原子炉の主要メーカーとして、再稼働の安全対策工事と次世代革新炉の開発を担っている。水曜はそこを確認する。

関西電力は、再稼働済み15基のうち7基を持つ会社だ。美浜3、大飯3・4、高浜1〜4。国内で最も原発に依存している電力会社であり、再稼働が実際に利益へどう効いているかを確かめられる数少ない実例になる。Jパワーが「建設中で止まっている原発を持つ会社」なら、関西電力は「動いている原発を最も多く持つ会社」だ。木曜はこの対比で見ていく。

金曜はここに九州電力、東京電力HD、IHI、そして海外のConstellation Energy、Oklo、NuScale Power、ウラン大手のCamecoを加えて横並びにする予定だ。

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