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Week 07 — 水素・新エネルギー
2026.09.18  ·  金曜 / 8社比較

水素関連8社比較——水素で買われている株は、この中に一つもない

月曜から木曜まで、水素・新エネルギーの銘柄を4本かけて見てきた。今日は国内5社と海外3社を横並びにする。

先に結論を書く。「水素で株価が上がっている会社」は、この8社の中に一つもなかった。

上がっている会社は防衛かAIデータセンターで上がっていて、水素そのものをやっている会社は理論値より安く放置されている。そして水素から撤退を決めた会社は、撤退を発表した日に株価が12%上がった。

順番に見ていく。

まず数字を並べる

国内5社。株価はすべて2026年9月18日終値ベース。

銘柄コード株価時価総額予想PERPBR配当利回り
岩谷産業80882,124.5円4,976.6億円10.7倍1.12倍2.21%
Jパワー95134,205円7,697.3億円9.1倍0.53倍2.50%
三菱化工機63313,370円800.1億円11.2倍1.73倍3.56%
川崎重工業70122,414円2兆1,165億円18.3倍2.38倍1.65%
三菱重工業70113,879円13.1兆円34.3倍4.23倍0.75%

海外3社。

銘柄ティッカー株価時価総額予想PERPSR配当利回り
Plug PowerPLUG約2.10ドル約29億ドル赤字約5.1倍なし
Bloom EnergyBE282.63ドル約826億ドル約106倍約24倍なし
Air ProductsAPD約301ドル約670億ドル約21倍約5.3倍約2.4%

PERが9倍から106倍まで、PBRが0.53倍から46倍まで。同じ「水素関連」という括りの中に、これだけの幅がある。

理論PBRで並べ直す

月曜に立てた評価の枠組みを使う。理論PBRはROEを株主資本コストで割って求める。資本コストを8%として計算した。

ROEはPBR÷PERで逆算した予想ベースの数値を使う。この方法の妥当性は検算できていて、日経が公表している予想ROEは三菱重工12.30%、川崎重工13.10%。逆算値の12.3%、13.0%とほぼ一致する。

銘柄PBR予想ROE理論PBR実際÷理論
Jパワー0.53倍5.8%0.73倍0.73
岩谷産業1.12倍10.5%1.31倍0.86
三菱化工機1.73倍15.4%1.93倍0.90
川崎重工業2.38倍13.0%1.63倍1.46
三菱重工業4.23倍12.3%1.54倍2.75

※火曜の岩谷産業の記事ではPBR1.05倍と記載したが、今回は1.12倍になっている。株価は下がっているのにPBRが上がるのは、参照したデータソースで1株純資産の取り方(実績基準か予想基準か)が異なるため。今日の表は5社すべて同一ソースの数値で揃えており、比較の一貫性はこちらを優先している。

きれいに割れている。

上の3社は、水素を実際にやっている会社だ。 岩谷産業は液化水素の国内シェア100%、三菱化工機は水素製造装置の国内1号機を1964年に手掛けたメーカー、Jパワーは石炭ガス化からの水素製造と大崎クールジェンの実証を持つ。この3社はすべて理論PBRを下回っている。

下の2社は、水素の物語が最も豊かな会社だ。 三菱重工は高砂水素パークで水素ガスタービンを、川崎重工は液化水素運搬船と川崎臨海部の水素製造設備を持つ。ニュースの見出しになる頻度で言えば、この2社が圧倒的に多い。そして理論PBRの1.46倍と2.75倍で買われている。

順番が逆転している。やっている会社ほど安く、語っている会社ほど高い。

ただし、重工2社は水素で買われていない

誤解のないように書いておくと、三菱重工と川崎重工が割高だと言いたいわけではない。買われている理由が水素ではないという話だ。

三菱重工は9月17日に前日比+150円(+4.01%)と大きく上げたが、材料は三菱UFJ銀行が防衛関連企業への融資基準を設ける方針と報じられたことだった。同じ日、日本製鋼所や東京計器といった防衛関連銘柄にも買いが先行している。水素の材料は一つも出ていない。

2026年3月期のセグメント別売上を見れば理由は明白だ。エナジーが40.9%、航空・防衛・宇宙が27.6%、プラント・インフラが17.5%、物流・冷熱が12.5%。売上5兆円規模の中で、水素ガスタービンは完全に埋没している。PER34.3倍は防衛とデータセンター向けガスタービンへの期待が作った数字で、水素は評価に含まれていないに等しい。

川崎重工も同じ構図にある。3月に3,766円の年初来高値をつけたあと2,319円まで下げ、直近で2,414円まで戻している。この上下は防衛・航空の需給で動いていて、液化水素サプライチェーンの進捗とは連動していない。

水素の物語が最も強い2社の株価を、水素は1円も動かしていない。

装置は、川崎重工から三菱化工機へ流れている

木曜に書いた話をここで接続する。

2026年9月10日、三菱化工機は川崎重工業から水素製造設備の装置を受注したと発表した。川崎市川崎区扇町向けで、水蒸気メタン改質法、8,400Nm³/hr(公称18.0t/day)、純度99.999%、2029年春完成予定。川崎重工が進める液化水素サプライチェーンの商用化に関わる案件だ。

つまり液化水素を運ぶ側の会社が、水素を作る装置を三菱化工機から買っている。バリューチェーンとしては、三菱化工機が川崎重工の上流にいる。

にもかかわらず、時価総額は川崎重工が2兆1,165億円、三菱化工機が800.1億円で26倍の開きがある。装置メーカーと総合重工の規模差なので当然ではあるが、水素の実需で先に売上が立つのは装置側だという点は押さえておきたい。運搬船の商用化は2030年前後、装置の納入は2029年春だ。

海外3社は、もっと極端に割れている

**Plug Power(PLUG)**は、この8社で唯一の純粋な水素企業だ。電解装置と燃料電池を手掛け、他の事業を持たない。

数字は厳しい。株価は約2.10ドル、時価総額は約29億ドル。過去12カ月の売上は7.44億ドル、純損失は16.4億ドル。売上の2倍以上の赤字を出している計算になる。5年前の株価は27.15ドルで、そこから92%下落した。52週レンジは1.43〜4.58ドル。

再建は進んでいる。「Quantum Leap」と名付けた構造改革で営業費用を前年比で半減させ、2026年第2四半期の売上は1.783億ドル、粗利率はマイナス0.9%とほぼ均衡まで戻した。豪州ではOricaのHunter Valley案件で50MWの電解装置を受注し、同国で最大のFID到達案件となっている。

それでも燃料部門の粗利率はマイナス48.8%。水素を売れば売るほど赤字が膨らむ構造は、まだ解けていない。月曜に書いた「純粋な水素株を買うと、黒字化までの資金繰りリスクを一緒に引き受ける」の実例がここにある。

**Bloom Energy(BE)**は、同じ燃料電池企業でありながら正反対の位置にいる。

株価282.63ドル、時価総額826億ドル。Plug Powerの28倍の規模だ。2026年9月21日の寄り付きからS&P500に採用されることが決まっており、モルソン・クアーズと入れ替わる。UBSは目標株価を300ドルから325ドルへ引き上げ、パッシブファンドが最終的に発行済株式の10〜15%を保有する可能性を指摘している。

ただし評価は極端だ。PSRは約24倍、PBRは46倍を超える。TTMベースのPERは350倍以上、2026年の予想EPS2.67ドルで計算しても約106倍になる。52週レンジは61.37〜351.28ドルで、1年で5倍以上動いたことになる。

そして重要な点として、Bloom Energyの主力製品は天然ガスで駆動する固体酸化物形燃料電池だ。 AIデータセンター向けのオンサイト電源として需要が急増しているのであって、水素で評価されているわけではない。三菱重工と同じ構図が、規模を変えて繰り返されている。

**Air Products(APD)**は、世界最大の水素供給企業だった会社だ。

そして2026年6月、ルイジアナのクリーンエネルギー複合施設とアリゾナの液化水素製造施設からの撤退を決め、最大29億ドルの税引前費用を計上すると発表した。サウジアラビアのNEOM案件はYaraとの販売契約で外販に切り替えている。

この撤退発表で、株価は12%上昇した。

現在の株価は約301ドル、時価総額約670億ドル、予想PERは約21倍、配当利回りは約2.4%。四半期配当1.81ドルを継続している。減損の影響で会計上の純損益は赤字だが、2026年度の調整後EPS見通しは13.39〜13.49ドルへ引き上げられた。

市場は明確なメッセージを出した。水素への巨額投資は、企業価値を毀損する行為として評価されている。

4つのタイプに分類する

8社を、株価が何で説明されているかで分けるとこうなる。

タイプ該当特徴
水素が評価されていない岩谷産業、Jパワー、三菱化工機実際に水素事業を持つが、株価は本業で説明がつく。理論PBR以下
別の物語で買われている三菱重工業、川崎重工業、Bloom Energy水素の話題性は高いが、株価を動かすのは防衛やデータセンター
水素で評価され、そして下げたPlug Power純水素企業。5年で92%下落
水素から降りて評価されたAir Products撤退発表で+12%

月曜に「政策は3兆円、IEAは下方修正」という乖離を書いた。株価の側から見ると、その乖離はもっとはっきりしている。市場は水素にまったく値段をつけていない。

この事実を、どう使うか

ここからは解釈になる。

一つの読み方は「水素は終わった」というものだ。IEAが2030年の低排出水素生産見通しを4,900万トンから3,700万トンへ初めて下方修正し、豪州最大のグリーン水素計画が頓挫し、AGCがイオン交換膜の設備投資を延期し、JパワーのGENESIS松島は環境アセスメントが止まったまま。事実を並べれば、この読み方には十分な根拠がある。

もう一つの読み方は「だから今の水準で持てる」というものだ。岩谷産業は年間356億円を水素に投じながら営業利益488億円を見込み、PBRは理論値の0.86倍。三菱化工機はROE15%台で理論値の0.90倍。水素がゼロ評価だからこそ、本業の価値だけで買える。

自分が保有しているのは前者の理由ではなく後者の理由だ。火曜と水曜に書いた通り、岩谷産業もJパワーも水素を評価せずに買っている。水素が来なければ何も起きないだけで、損はしにくい。

逆に言えば、この8社の中で「水素が来ること」に賭けている銘柄は一つも持っていない。 Plug Powerを買えばそれができるが、黒字化までの資金繰りリスクを引き受けることになる。今の自分はそのリスクを取る気がない。

月曜に書いた「二階建て評価」を、もう一度書いておく。一階の本業で株価の説明がつくこと。二階の水素は無料で付いてくること。この条件を満たす銘柄だけが、10年遅れても持ち続けられる。

明日は今週の自分株まとめとして、ポートフォリオの損益と週間騰落を確認する。

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