インデックスと、それから
Week 07 水素・新エネルギー
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Week 07水素・新エネルギー
2026.09.14  ·  月曜 / テーマ解説

水素・新エネルギー——国が3兆円を積む市場と、世界が下方修正した現実

水素関連株が最後に本格的に物色されたのは2021年だった。あれから5年、株価は長い凪の中にある。一方で政策だけは着実に前へ進んでいて、2024年5月には水素社会推進法が成立し、3兆円規模の価格差支援の枠組みが動き出している。

政策が進んでいるのに株価が動かない。この状態をどう読むかが、今週のテーマの入口になる。

なぜ水素なのか——電化できない領域が残る

脱炭素の主戦場は電化だ。自動車はEVへ、家庭の給湯や暖房はヒートポンプへ。Week06で扱ったEV・電動化はまさにその流れだった。

ただし電化では届かない領域がある。

日本の場合、ここに「エネルギー安全保障」が重なる。国内で安価な再生可能エネルギーを大量に作れない以上、水素・アンモニアは海外で作って運んでくる前提になる。輸入する以上、調達網を握る商社・ガス会社・電力会社の役割が大きくなる——これが日本の水素テーマの構造だ。

政策:3兆円の価格差支援と、その進み具合

水素社会推進法の中心にあるのが「価格差に着目した支援」だ。低炭素水素は既存の化石燃料より高い。その差額を国が埋める。制度の骨格はこうなっている。

項目内容
支援規模3兆円
支援期間供給開始から15年間
支援対象の下限年1,000トン
支援終了後さらに10年の事業継続が前提
拠点整備支援今後10年で大規模3カ所程度、中規模5カ所程度

長期で腰を据えた制度設計になっている。ここまでは前向きな話だ。

問題は進捗の中身だ。価格差支援の公募には2025年3月末の締切までに27件の申請があり、2026年3月までに認定されたのは6件。直近で認定された案件を見ると、山梨の案件が年1,607トン、福島の案件が年1,177トンという規模だった。拠点整備支援のほうは12件の申請に対し、2026年3月27日付でJERAほかの案件と、北海道電力・三井物産・IHI・苫小牧埠頭ほかのアンモニア案件が認定されている。

年1,607トン。国の2030年目標は最大300万トンだ。桁が3つ違う。

市場規模:目標値と現実値のあいだ

日本の導入目標を並べるとこうなる。

時点水素等の年間導入量
現在約200万トン(大半は既存のグレー水素)
2030年最大300万トン
2040年1,200万トン程度
2050年2,000万トン程度

コスト目標は現在の100円/Nm³を2030年に30円/Nm³、2050年に20円/Nm³まで下げる。官民合わせて15年間で15兆円の投資計画が想定されている。金額だけ見れば十分に大きい市場だ。

一方で世界の実態はこうだ。IEAは2025年版のレポートで、2030年の低排出水素の生産見通しを従来の年4,900万トンから3,700万トンへ下方修正した。この予測が引き下げられたのは初めてだった。2025年時点で実際に生産されている低排出水素は年100万トン程度、全水素生産の1%に満たない。

逆風の具体例も揃っている。

そしてもう一つ、市場の評価を端的に示す出来事があった。米国の産業ガス大手エア・プロダクツは2026年6月、ルイジアナのクリーンエネルギー複合施設とアリゾナの液化水素製造施設からの撤退を決め、最大29億ドルの税引前費用を計上すると発表した。このニュースで同社の株価は12%上昇している。

市場は水素への投資を評価しているのではない。水素から降りることを評価している。この温度差が、いまの水素テーマの現在地だ。

評価指標の考え方:水素は「二階建て」で見る

Week01の量子コンピュータやWeek05の蓄電池では、赤字先行企業をPSRで見る場面が多かった。水素テーマではその手法がほとんど使えない。理由はシンプルで、日本に純粋な水素専業の上場企業が事実上存在しないからだ。

岩谷産業はLPガスと産業ガスの会社であり、Jパワーは石炭火力と水力の電力卸だ。水素は売上構成比で見ればまだ小さい。だからPSRで「水素事業の期待値」を測ろうとすると、本業の売上に埋もれて何も見えなくなる。

今週は次の二階建てで評価する。

一階:本業の稼ぐ力 予想PER、PBR、配当利回り、ROE。ここが崩れている会社は、水素がどれだけ有望でも買えない。水素の商用化が10年後なら、それまで本業で耐えられるかが先決になる。

二階:水素オプションの価値 水素事業の売上・利益がすでに計上されているか、認定案件を持っているか、上流(製造)から下流(供給)までどこを押さえているか。ここは定量化しづらいので、「本業の株価水準に対して、水素分がどれだけタダで付いてくるか」という見方をする。

そのうえで、テーマ株特有の注意点を一つ。水素関連株はニュースで先に動き、実需は後からついてくる。そして実需側の遅行指標は明確だ——価格差支援の認定件数、FID(最終投資決定)の件数、水素ステーションの稼働率。株価が動いたときにこの3つが動いていなければ、それは期待の先食いである可能性が高い。

今週登場する3社

曜日銘柄コード位置づけスタンス
岩谷産業8088国内水素供給の実質的な本丸。水素ステーション・液化水素で先行保有中
Jパワー9513石炭ガス化からの水素製造、アンモニア混焼。GENESIS松島計画保有中
三菱化工機6331水素製造装置(水蒸気改質)・ステーション向け設備未保有

指標の目安は以下のとおり(2026年9月上旬の終値ベース。岩谷は9/9、Jパワーは9/10、三菱化工機は9/4時点)。

銘柄株価時価総額予想PERPBR配当利回り
岩谷産業2,167円約5,076億円約11.0倍約1.05倍約2.2%
Jパワー4,132円約7,286億円約9.0倍約0.51倍約2.5%
三菱化工機3,205円約775億円約10.7倍約1.6倍約3.7%

3社とも予想PERは1桁台後半から10倍台。水素テーマにしては地味な数字が並ぶが、これは裏を返せば「水素への期待がほとんど株価に入っていない」ということでもある。本業の稼ぐ力で説明できる水準に収まっている。

Jパワーは Week04(電力・エネルギーインフラ)でも扱ったが、アンモニア混焼と石炭ガス化水素という別の顔を持っているので、今回は水素サプライチェーンの担い手として改めて見ていく。

金曜は国内外を横並びにする

金曜の比較記事では、上の3社に国内の重工2社と海外勢を加えて並べる予定だ。

国内:三菱重工業(水素ガスタービン・アンモニア混焼)、川崎重工業(液化水素運搬船と川崎臨海部の水素製造設備)。どちらも水素の物語性は強いが、株価は防衛と航空が動かしている。その乖離を数字で示す。

海外:

「水素関連」という一語で括られる銘柄が、実際にはどれだけ違うものを指しているのか。並べれば一目で分かるはずだ。

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