インデックスと、それから
Week 07 水素・新エネルギー
解説深掘り①深掘り②深掘り③比較自分株
Week 07水素・新エネルギー
2026.09.16  ·  水曜 / Jパワー(9513) 深掘り

Jパワー——PBR0.31倍で買った株が+64%、それでもまだ0.51倍

保有中(含み益 +64%/2026年9月10日終値時点)

この株を買った理由は水素ではない。とにかく割安なエネルギー配当株だと思ったからだ。当時のPBRはおよそ0.31倍。純資産の3分の1以下の値段がついていた。配当利回りは約4%あった。

その後株価は6割以上上がり、水素・アンモニアのテーマ株としても名前が挙がるようになった。だが正直に書くと、この会社の水素と岩谷産業の水素は、性格がまったく違う。

今日はそこを整理する。

そもそも何をしている会社なのか

Jパワー(電源開発)は1952年に国策会社として設立された電力卸売事業者だ。自分で電気を売る相手は主に電力会社で、一般家庭には直接売らない。国内に水力・石炭火力を中心とした発電設備を持ち、送電線も所有している。

投資家として押さえるべき点は3つある。

1. 石炭火力の比率が高い これがこの会社の評価を長く押し下げてきた最大の要因だ。2024年には2030年度までに国内の石炭火力5基を休廃止すると発表し、残る9基はアンモニア混焼やCCSで生き残らせる方針を示した。3カ年で火力設備の改修費と研究開発費に300億円を投じる計画になっている。

2. 利益の相当部分が海外にある 国内の石炭火力会社に見えるが、実態は違う。2026年3月期は営業利益1,010億円に対して経常利益1,585億円。差額の約575億円が営業外で、その多くは海外IPP(独立系発電事業者)からの持分法投資利益だ。米国、タイ、中国などに発電資産を持っている。

3. 大間原子力発電所という巨大な未確定要素 青森県で建設中のフルMOX原発。すでに巨額の資金が投じられているが、稼働時期は確定していない。バランスシートに乗っている建設仮勘定が、いつ収益を生むのか誰にも分からない。

PBRが0.5倍を割り込んできた背景には、この3つが全部絡んでいる。

買ったときの水準を確認する

取得単価はおよそ2,520円だった。

指標取得時(約2,520円)現在(4,132円・2026年9月10日)
PBR約0.31倍約0.51倍
配当利回り約4.0%(当時の配当100円ベース)約2.5%
取得単価ベースの利回り約4.2%(今期予想105円ベース)

PBR0.31倍というのは、会社を解散して資産を全部売り払えば3倍以上の金額が戻ってくる計算になる水準だ。もちろん石炭火力の簿価が本当に実現するのかという論点はあるが、それにしても安かった。

配当も安定していた。2022年3月期75円、2023年3月期90円、2024年3月期から3期連続で100円、そして今期は105円への増配予想。減配していない。

「割安なエネルギー配当株」という判断は、この2つの数字だけで十分に成立していた。水素は完全に後付けだ。

現在の業績と指標

まず数字を並べる。

2026年3月期(実績)2027年3月期(会社予想)
売上高1兆1,822億円(-10.2%)1兆3,800億円(+16.7%)
営業利益1,010億円(-27.0%)1,250億円(+23.8%)
経常利益1,585億円(+13.2%)1,250億円(-21.2%)
当期純利益585億円810億円(+38.4%)
1株当たり利益460.21円
1株配当100円105円

今期1Q(2026年4〜6月)はこうなっている。

項目1Q実績前年同期比通期予想に対する進捗
売上高2,803億円+12.0%20.3%
営業利益363億円+11.7%29.0%
経常利益396億円-45.9%31.7%
当期純利益274億円-47.3%33.8%

純利益が半減しているが、これは前年同期に米国事業の売却益が乗っていた反動だ。営業利益は+11.7%で本業は堅調、進捗率も通期予想に対して順調に見える。ヘッドラインの「純利益47%減」だけ見て売るのは早計だろう。

指標は以下の通り。

項目数値
株価4,132円
時価総額約7,286億円
予想PER約9.0倍
PBR約0.51倍
ROE(PBR÷PERで逆算)約5.7%
配当利回り約2.5%
配当性向(今期予想)約22.8%

「安い」の意味が、岩谷産業とは違う

ここが今日いちばん書いておきたい部分だ。

昨日の岩谷産業と並べる。

岩谷産業Jパワー
PBR約1.05倍約0.51倍
ROE約9.5%約5.7%
理論PBR(ROE÷資本コスト8%)約1.19倍約0.71倍
理論値までの乖離約12%約28%

PBRだけ見ればJパワーの方が圧倒的に安い。だがROEが資本コストを下回っているという点が決定的に違う。

理屈はこうだ。ROEが株主資本コストを上回っている会社は、資本を使うほど価値が増える。だからPBRは1倍を超えていい。逆にROEが資本コストを下回る会社は、資本を使うほど価値が目減りする。PBRが1倍を割るのは市場の誤りではなく、正しい評価である可能性がある。

資本コストを8%とすると、Jパワーの理論PBRは5.7 ÷ 8 で約0.71倍。現在の0.51倍はそこから3割近く安いので、まだ余地はある。だがこの株が1倍に戻るには、ROEそのものが上がる必要がある。単に見直されるのを待つだけでは届かない。

+64%という含み益は、0.31倍から0.51倍への移動で説明できる。深すぎるディスカウントが常識的な水準まで戻っただけだ。ここから先、0.71倍まではまだ4割弱の距離があるが、それを超えるにはROEの改善が条件になる。

この会社の水素は、成長投資ではない

ようやく水素の話に入る。

Jパワーが水素・アンモニア関連として語られる根拠は主に3つある。

1. GENESIS松島計画 長崎県西海市の松島火力2号機に、酸素吹き石炭ガス化設備・ガスタービン・排熱回収ボイラーを後付けする計画。新設約18万kW、既設約32万kW。将来的にはアンモニアやバイオマスとの混焼、CO2の分離回収、石炭からの水素製造と水素発電まで視野に入れている。

2. 大崎クールジェン 広島県で実施した石炭ガス化の実証プロジェクト。CO2回収率90%以上、回収純度99%以上を確認し、より純度の高い水素ガスの製造・発電を可能にした。2022年度末に目標を達成して完遂している。技術的な蓄積は本物だ。

3. アンモニア混焼 休廃止する5基を除く9基の石炭火力について、アンモニアなどとの混焼を進める方針。

ここで気づいてほしいのは、この3つがすべて「既存の石炭火力を使い続けるための技術」だという点だ。

岩谷産業の水素投資は、液化水素という新しい商品の市場を作るための投資だった。うまくいけば新しい収益源が生まれる。対してJパワーの水素投資は、座礁資産になりかねない石炭火力を生き残らせるための投資だ。うまくいっても、生まれるのは「既存資産の延命」であって新規の成長ではない。

投資家が引き受けるリスクの性質が違う。岩谷の場合は「投資が実らなくても本業は無傷」だが、Jパワーの場合は「投資が実らなければ既存資産が毀損する」。上振れの形も下振れの形も、両社で異なる。

そのGENESIS松島が、止まっている

保有している以上、都合の悪い話も書く。

GENESIS松島の当初計画は2024年工事開始・2026年度運転開始だった。2023年10月にJパワーは2年延期を発表し、2026年工事開始・2028年度運転開始に修正。同時に松島火力1号機の廃止と2号機の休止を決めた。1号機は2025年5月に廃止、2号機は長期計画停止に入っている。

問題はその後だ。工事開始には環境影響評価の手続き完了が必要で、残るのは最終段階の「準備書」だけとなっていた。当時の菅野社長は2025年8月に「今秋、準備書の手続きに入りたい」と述べていたが、2026年春の時点でもアセスメント手続きは中断されたままだと報じられている。加藤新社長は同計画について「見直す」「延期せざるを得ない」と発言したとも伝えられる。

つまり2026年工事開始という予定は、事実上すでに崩れている。

月曜のテーマ解説で、世界の水素プロジェクトが次々に延期・撤回されている話を書いた。エア・プロダクツが水素から撤退して株価が12%上がった件も取り上げた。GENESIS松島の停滞は、その世界的な潮流と同じ文脈にある。日本国内も例外ではないということだ。

ただし投資家の目線では、ここは単純な悪材料ではない。計画を中止すれば、その分の投資負担が消える。CO2の輸送方法も貯留先も確定していない状態で数千億円規模の設備投資に踏み切るより、立ち止まる方が株主価値にとって合理的な可能性は十分にある。PBR0.51倍という評価には、この計画が進むリスクも織り込まれていると見るべきだろう。

保有している立場から

+64%が乗っている。ただしこれは水素で上がったのではなく、PBR0.31倍という異常な安値が0.51倍という普通の安値に戻っただけだ。読みが当たったというより、極端に安いところで拾えたという方が正確だと思う。

継続保有する理由は、買ったときと変わっていない。

一つ目は、まだ安いこと。理論PBR0.71倍に対して0.51倍。ROEが低いままでも、3割弱の乖離は残っている。

二つ目は、配当が減っていないこと。現在株価での利回り2.5%は目立たないが、取得単価ベースでは約4.2%。今期は105円へ増配予想で、配当性向は22.8%と低い。石炭火力への逆風が続くなかでも還元を続けている点は評価している。

三つ目は、水素に期待していないこと。これは逆説的に聞こえるが、GENESIS松島が中止になってもこの株を売る理由にはならない。むしろ投資負担が消える分、キャッシュフローには好材料になり得る。水素シナリオが崩れても損をしない持ち方をしているので、落ち着いて見ていられる。

売却を考える条件は2つ。

ROEが5%を継続的に割り込んだとき。資本コストとの差が開けば、PBRが0.5倍に張り付いたまま動かない「万年割安株」になる。安いまま10年経つ株は、割安株ではなく単に価値のない株だ。

大間原発をめぐって大きな減損が出たとき。建設仮勘定が費用化されれば純資産が削られ、PBRの計算根拠そのものが変わる。0.51倍という数字が0.7倍に見えてくる可能性がある。

明日は三菱化工機を扱う。こちらは未保有で、水素の純度という点では今週で最も高い会社だ。Jパワーや岩谷産業のように「本業のついでに水素」ではなく、水素製造装置そのものを作っている。

本ブログは個人の投資記録・考察であり、投資助言ではありません。掲載情報の正確性は最善の注意を払っていますが保証するものではありません。投資の最終判断はご自身の責任でお願いします。