住友電工——一度撤退した事業が「起死回生」を遂げつつある、地味な蓄電池の話
火曜のパワーエックスはPER211倍・株価-60%という激しい値動きの銘柄だった。今日取り上げる住友電気工業のレドックスフロー電池事業は、真逆の性格を持つ。時価総額約6.7兆円の巨大企業の中の、地味だが粘り強い一事業だ。
レドックスフロー電池とは何か
電解液を外部タンクに貯蔵し、隔膜で分けた正極・負極の電極にそれぞれ循環させることで充放電を制御する蓄電池だ。パワーエックスが手掛けるリチウムイオン電池とは根本的に方式が異なる。バナジウムなどのイオン(活物質)の酸化還元反応を利用し、火災リスクが低く長寿命という特性を持つ。日本では1980年代から国のプロジェクトとして開発が始まった、意外に歴史の長い技術だ。
一度は撤退した過去がある
住友電工がレドックスフロー電池(RF電池)の開発を始めたのは1985年。電力会社と組んで、当時誰も手を出さない技術に挑んだという。2000年に実用化にこぎつけたが、非常用電源として導入した病院や工場で液漏れが発生し、コスト高と原料バナジウムの市況不安定さも重なって赤字が続き、2005年に事業撤退に追い込まれている。
一度潰えた事業が、再生可能エネルギーの普及という追い風を受けて息を吹き返したのが今の姿だ。
直近の技術進化——寿命20年→30年へ
2025年、住友電工はRF電池の運用年数を従来の20年間から最長30年間へ延長したと発表した。太陽光など脱炭素電源や電力系統の需給調整用途での蓄電性能が向上し、2025年度中に受注を開始するとしている。新モデル「V40型」は長寿命・高い安全性・環境へのやさしさに加え、セキュリティ適合レベル(JC-STAR)や廃棄物処理法の広域認定も取得済みの国産蓄電池として評価されている。
受注実績が着実に積み上がっている
直近の受注実績を時系列で見ると、事業の広がりがよく分かる。
- 2025年10月:新出光(福岡)から、熊本県長洲町の蓄電所向けに容量8,000kWh・出力1,990kWの受注(2026年10月完工予定)
- 2026年2月:経済産業省の系統用蓄電池補助事業に、RF電池導入プロジェクト3件が採択決定
- 過去実績:国内外で出力計47MW・容量計164MWhの納入実績
北海道電力ネットワークとの共同プロジェクトでは、出力17MW・容量51MWhという大規模設備も稼働中で、短周期変動抑制制御や風力・太陽光発電の変動補償制御という系統安定化の役割を担っている。
米国市場への再挑戦
世界の蓄電池市場の3分の1を占める米国市場に対しては、10億円を投じてRF電池を現地生産する方針を表明している。サンディエゴでの実証機見学会には全米・海外から150人ものエネルギー事業関係者が訪れたと報じられており、注目度の高さがうかがえる。米国では蓄電池ベンチャーが資金・技術面で失敗して撤退する例が多い中、大手企業としての信頼性を武器に現地市場に食い込もうとしている。
パワーエックスとの対比で見えること
同じ蓄電池でも、パワーエックスはリチウムイオン電池で高出力・量産性を重視し、株価はPER211倍という期待先行の評価を受けている。一方、住友電工のRF電池は長期運用コストの安さ・長寿命・低い火災リスクを武器に、系統安定化という地味だが着実な需要を積み上げている。同じ「電力を貯める」という機能でも、狙う用途とスピード感がまったく異なる2つのアプローチだと言える。
保有株としての位置づけ
住友電工は光通信テーマ(Week02)で深掘りした際にも触れたが、まだ保有はしていない。ただしRF電池事業は、自動車部品・光ファイバーに次ぐ「第3の柱」候補として今後の業績に効いてくる可能性がある。一度失敗した事業を20年かけて再生させてきたという経緯は、腰を据えて長期保有する銘柄としての信頼感につながると感じている。
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